停電に強い事業所をどうつくるか。南海トラフ地震や激甚化する豪雨を前に、いま中小企業・自治体・建設業が注目しているのが「蓄電池」です。矢野経済研究所の最新調査では、系統用・再エネ併設型の蓄電池を電力市場で運用する「蓄電所ビジネス」市場が2030年度に約4,240億円へ拡大すると予測されました。エネルギー転換の文脈で語られがちな蓄電池ですが、その実体は災害時のBCP(事業継続)電源そのものです。本記事では、防災電源という切り口で蓄電池市場の最新動向と参入のポイントを整理します。
1|「蓄電所ビジネス」市場は2030年度に4,240億円へ
1-1 矢野経済研究所の最新予測(2026年1月発表)
矢野経済研究所が2026年1月20日に発表した調査によると、系統用蓄電池または再生可能エネルギー併設型蓄電池を電力取引市場で運用して収益を得る「蓄電所ビジネス」の国内市場(事業者収入ベース)は、2024年度の約450億円から、2030年度には約4,240億円規模まで拡大すると予測されています。2025年度時点でも約750億円への成長が見込まれています。
| 年度 | 市場規模(事業者収入ベース) | 区分 |
|---|---|---|
| 2024年度 | 約450億円 | 実績推計 |
| 2025年度 | 約750億円 | 予測 |
| 2030年度 | 約4,240億円 | 予測 |
※出典:矢野経済研究所「蓄電所ビジネス市場に関する調査を実施(2025年)」調査結果を見る
1-2 成長を押し上げる構造要因
市場拡大の直接の引き金は再生可能エネルギーの拡大です。国内の再エネ比率は2012年度の約10%から2023年度には約23%まで上昇し、太陽光・風力の出力変動を吸収する「調整力」としての蓄電池需要が急増しました。2024年4月に需給調整市場が全面開場したことも、蓄電池を収益資産として運用できる環境を整えました。
※出典:スマートグリッドフォーラム(インプレス)「蓄電池ビジネス市場は2030年度に4240億円へ拡大、矢野経済予測」記事を見る
2|系統用蓄電池の連系は「申請過多・接続僅少」の入口段階
2-1 接続申請は9,000万kW級、連系済みはわずか17万kW
市場の伸びしろを示すのが系統接続の現状です。経済産業省の資料によると、2024年12月末時点で電力系統に連系済みの系統用蓄電池は約17万kW(約0.17GW)にとどまる一方、接続検討の受付は約9,500万kWに達しています。申請が殺到する一方で実際の稼働はこれからという、市場の入口段階にあることが分かります。
※出典:経済産業省「蓄電池産業を取り巻く環境の変化」(2026年4月17日)資料を見る
2-2 2030年の導入見通しは累計14.1〜23.8GWh
経済産業省は2030年時点の系統用蓄電池の累計導入見通しを14.1〜23.8GWh程度と置いています。現状の連系容量から逆算すれば、今後数年で数十倍規模の設備投資が動く計算です。2026年5月13日には、長期脱炭素電源オークション(応札年度2025年度)の約定結果が電力広域的運営推進機関から公表され、脱炭素電源として蓄電池の長期確保が制度面でも進んでいます。
※出典:電力広域的運営推進機関「容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2025年度)」(2026年5月13日公表)約定結果を見る
系統用蓄電池は「申請は出したが、まだ動いていない」案件が大量に積み上がっている状態です。投資判断・系統連系・工事を実行に移すフェーズはこれからであり、設置・施工・保守を担う建設業や設備業者にとっては中期的な受注の波が見込まれます。
3|国も認める「防災電源」市場 — 蓄電・自家発電は国土強靱化の中核
3-1 国土強靱化の民間市場で蓄電システムは年率50.5%の高成長分野
蓄電池を「防災・BCP電源」として位置づけているのは、ほかならぬ国です。内閣府(国土強靱化推進本部)の「国土強靱化に関する民間市場の規模の推計」では、蓄電システム装置市場が現在(2013年)の約1,035億円から将来(2020年)には約4,691億円へ、年率換算50.5%という推計対象40市場の中でもトップクラスの伸び率で成長すると見込まれていました。この推計では国土強靱化に資する民間市場全体を約11.9兆円と試算しており、公的支出(約12.4兆円)に匹敵する規模です。
| 個別市場(防災・BCP電源関連) | 現在(2013年) | 将来(2020年) | 年率換算 |
|---|---|---|---|
| 蓄電システム装置 | 1,035億円 | 4,691億円 | +50.5% |
| 備蓄品(保存水・非常食・簡易トイレ等) | 288億円 | 702億円 | +20.5% |
| 地下エネルギー(地熱発電)の開発 | 235億円 | 434億円 | +12.1% |
| BCP関連コンサルティング・訓練 | 148億円 | 184億円 | +3.5% |
| 自家発電装置 | 2,285億円 | 2,244億円 | -0.3% |
※出典:内閣府「国土強靱化に関する民間市場の規模の推計(附属資料2)」推計資料を見る
3-2 「自家発電」から「蓄電」へ — 防災電源の主役交代
注目すべきは、同じ防災電源でも従来型の自家発電装置(ディーゼル発電機等)が年率マイナス0.3%とほぼ横ばいなのに対し、蓄電システムは50.5%で急伸する構図です。燃料補給が要らず、太陽光と組み合わせれば長期停電にも自立対応できる蓄電池が、防災電源の主役へと交代しつつあることを国の推計データが示しています。
3-3 公的支出と肩を並べる民間市場という事実
国土強靱化は「税金を使った公共事業」というイメージが先行しがちですが、推計が示すのは民間市場が公的支出とほぼ同規模で動いているという事実です。防災・耐震・蓄電・備蓄といった分野は、補助金頼みではなく自律的な市場として成立しつつあります。
4|建設業・中小企業・自治体に見える3つのビジネスチャンス
4-1 設置・施工・保守を担う「現場力」需要
系統用蓄電池の接続申請が9,500万kW級まで積み上がる一方、実際の連系・施工はこれからです。基礎工事、受変電設備、消防法・電気事業法への対応など、蓄電所建設には地域の建設業・電気工事業の現場力が不可欠です。再エネ事業者やデベロッパーからの一次・二次請けに加え、保守点検の継続案件も期待できます。
4-2 中小企業のBCP電源としての産業用蓄電池
停電は事業停止の最大要因の一つです。自家消費型太陽光と産業用蓄電池を組み合わせれば、平常時は電気代を抑え、災害時は自立電源として事業を継続できる「二刀流」の投資になります。レジル社が初期費用0円で蓄電池を設置しビルのBCPを強化するスキームを始動するなど、初期投資の壁を下げるサービスも登場しています。
※出典:レジル株式会社「蓄電池活用によるビルのBCP対策強化プロジェクトを始動」ニュースリリースを見る
4-3 自治体の避難所・公共施設の電源強靱化
避難所となる学校・体育館・庁舎への蓄電池導入は、国土強靱化計画の柱の一つです。再エネ設備とセットで導入すれば、停電時の照明・通信・医療機器の電源を確保できます。補助制度を活用した公共施設の電源強靱化は、地域の設備業者にとって安定的な受注分野です。
5|まとめ
この記事のポイント
- 「蓄電所ビジネス」市場は2024年度約450億円から2030年度約4,240億円へ拡大予測(矢野経済研究所、2026年1月発表)
- 系統用蓄電池は接続申請約9,500万kWに対し連系済み約17万kWと、本格稼働はこれからの入口段階(経済産業省)
- 国土強靱化の民間市場でも蓄電システムは年率50.5%の高成長分野。従来型の自家発電装置(-0.3%)から防災電源の主役が交代(内閣府推計)
- 建設業の設置・施工需要、中小企業のBCP電源、自治体の避難所電源強靱化が主な参入チャンス
WiZNAVIでは、国土強靱化・防災・BCPに関わる市場の最新動向を、実在の調査データに基づいて継続的にお届けします。蓄電池は「環境投資」であると同時に「防災投資」です。停電に強い事業所づくりの第一歩として、自社の電源体制を見直すタイミングが来ています。
WiZNAVI 編集部
国土強靱化・防災ビジネスに特化した専門メディア「WiZNAVI」の編集チーム。政策動向、市場分析、補助金情報、導入事例など、ビジネスパーソンの意思決定に役立つ情報を配信しています。