BCP・防災実務

中小企業のBCP策定率17.1%、広がる格差 「止まらない事業者」が選ばれる時代へ

BCP策定率の規模間格差とサプライチェーンからの要求を軸に、中小企業が事業継続への投資を先送りすべきでない理由を底まで掘る

WiZNAVI 編集部BCP・防災実務 担当
2026.07.09READ 5 min

中小企業のBCP策定率17.1%、広がる格差 「止まらない事業者」が選ばれる時代へ

「うちは小さいから、BCPはまだ先でいい」。その判断が、これから少しずつ効いてくるかもしれない。BCPを備えた中小企業は、まだ少数派にとどまる。しかも大企業との差は、縮まるどころか開いている。一方で、取引先から「止まらない備え」を求められる場面は増えてきた。この記事は経営者とBCP担当の方に向けて、格差の実態と、その背景にある原因、そして取引の現場で起きている変化を、数字とともに読み解く。SUP+30 編集部は、中小企業こそ先送りすべきでない局面に来ている、と考える。

数字で見る、広がるBCP策定率の格差

まず現状を数字で押さえたい。帝国データバンクの調査では、全企業のBCP策定率は20.4%で、はじめて2割を超えた。順調に見えるが、中身を分けると景色が変わる。

大企業の策定率が38.7%なのに対し、中小企業は17.1%にとどまる。その差は21.6ポイントまで広がった。全体の数字が上向いたのは大企業がけん引した結果で、中小の遅れはむしろ構造として固まりつつある。

区分BCP策定率全企業のなかでの位置
全企業20.4%平均
大企業平均を大きく上回る上位をけん引
中小企業17.1%平均より低い

この調査は2025年5月に行われた第8回のものだ。平均だけを見て、もう大丈夫と考えるのは早い。自社が中小の側にいるなら、まわりの多くがまだ備えていない、という現実をそのまま受け止めたほうがいい。遅れている層にいる、と分かることが最初の一歩になる。

止まる原因は「やる気」ではなく「資源と入口」

では、なぜ中小企業は進まないのか。ここを取りちがえると、対策も的を外す。

調査や白書を見ると、未策定の主な理由は「策定するスキルやノウハウがない」「人材や時間を確保できない」が上位に並ぶ。中小企業ではこれに「必要性を感じない」「費用が確保できない」も加わる。気持ちが足りないのではない。社内に回せる人手や知見がなく、どこから手をつければいいかの入口が見えない。壁の正体は、そこにある。

ここが分かると、打ち手は変わる。気合いを入れ直すよりも、外の力を借りて資源と入口を補えばいい。計画づくりのひな型は公開されているし、専門家の支援も受けられる。後で触れるように、その入口は公的な制度としても用意されている。意欲の話に閉じこめず、しくみで越える発想に切りかえたい。一人で抱えこむほど、手は止まる。

サプライチェーンが「止まらないこと」を取引の条件にしつつある

もうひとつ、外からの圧力が静かに強まっている。取引の現場で、BCPが「あれば望ましいもの」から「ないと困るもの」へ変わりつつある。

サプライチェーンの一員である中小企業が止まると、その影響は一社にとどまらない。被災のときに部品や材料が届かず、取引先のグループ全体が止まることもある。だから大手の企業のなかには、取引先に対してBCPへの対応を求める指針を公開する例がある。求められるのは、連絡の手順や、代わりの生産・調達の備え、復旧までの見通しといった具体的な中身だ。調達する側も、ひとつの供給先に頼らず、複数の会社から買って供給を分散させるのが基本になってきた。

この流れは、中小企業に静かな選別をもたらす。止まらない備えがある事業者は、選ばれ続ける。備えのない事業者は、知らないうちに候補から外れていく。価格や品質が同じなら、止まりにくいほうに発注は寄る。BCPは、もはや守りの書類ではない。取引を続けるための、攻めの条件に変わりつつある。

では、中小企業はどう動くか

壁が「資源と入口」にあるなら、そこを外から補えばいい。さいわい、防災・BCPの投資を後押しする公的な制度が整っている。

国の認定制度を入口にすると、税の優遇、補助金の加点、低利の融資といった支援が使える。費用の壁は、こうしたしくみで軽くできる。制度のくわしい使い方は、税制・補助金・融資をまとめた別の記事で扱う。あわせて読むと、何から始めればいいかが見えてくるはずだ。

大切なのは、完ぺきな計画を一度に作ろうとしないことだ。まず自社のどこが止まると困るかを書き出す。次に、初動と連絡の手順を決める。そこから一歩ずつ広げれば十分だ。小さく始めて、続けながら整える。それが、人も時間も限られた中小企業に合うやり方だ。完成を待つより、走りながら直していくほうが、結局は早い。

優先する順番も、はっきりさせておきたい。最初は人の安全と連絡の確保、次に止められない仕事の継続、そして復旧の段取り、という順だ。すべてを同時に守ろうとすると、どれも中途半端になる。守る対象を絞るほど、計画は使えるものになる。取引先とのつながりが深いなら、自社だけで抱えず、相手と一緒に備える連携の形も選べる。指針を求めてくる相手とは、むしろ一緒に作ったほうが早く、信頼にもつながる。備えを見せられること自体が、これからの取引では一つの強みになる。

まとめ:先送りのコストは、静かに積み上がる

BCPの格差は、平均の数字に隠れて広がっている。中小企業が止まる原因は、やる気よりも資源と入口の不足にある。そして取引の現場では、止まらないことが選ばれる条件へと変わりつつある。

この3つを重ねると、結論は一つに向かう。「小さいから後でいい」という判断は、これから少しずつ高くつく。取引を一件失えば、設備への投資より大きな痛手になりかねない。先送りのコストは目に見えないだけで、静かに積み上がっていく。備えにかかるお金は前もって見積もれるが、止まったときに失う取引や信用は、後から取り返すのがむずかしい。この差は、時間がたつほど開いていく。まずはリスクの棚おろしと、使える公的支援の確認から始めてほしい。動き出すのに、規模の大小は関係ない。

出典

  • 帝国データバンク「企業の事業継続に係る意識調査(2025年)」 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250620-bcp2025/
  • 中小企業庁「中小企業白書2025 BCP(事業継続計画)」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_2_4.html
  • NEC「サプライチェーンBCPガイドライン(お取引先様向け)」 https://jpn.nec.com/purchasing/data/scbcp_guideline_j.pdf
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