政策・制度

経済安全保障のサプライチェーン強靱化に2.56兆円、企業の拠点は誰が守るのか

『国のサプライチェーン投資が進むほど、企業の拠点BCP投資は経営の見えない前提になる』という1主張を、制度の規模→制度の対象範囲の空白→策定率格差 の3層で底まで掘る

WiZNAVI 編集部政策・制度 担当
2026.07.06READ 5 min
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経済安全保障のサプライチェーン強靱化に2.56兆円、企業の拠点は誰が守るのか

国は重要な物資の供給網に、兆円の単位でお金を投じている。経済安全保障推進法のサプライチェーン強靱化が、その柱の一つだ。ただし、その供給網を実際に動かすのは、一つひとつの企業の拠点である。拠点が災害や障害でとまらないための備えは、いまも各社の判断にゆだねられている。この記事はBCPをあずかる経営と実務の層に向けて、国の投資がまもる範囲と、各社にのこる備えの境目を整理する。国の強靱化が進むほど、自社のBCP投資が経営のみえない前提になる流れをたどりたい。

国は『モノ』の供給網に2.56兆円を投じている

経済安全保障推進法は2022年に成立した。その柱の一つが、サプライチェーンの強靱化である。国が指定する特定重要物資について、供給がとぎれない体制づくりを後押しする。対象は当初の11分野から、二度の追加をへて現在は16分野に広がった。半導体や蓄電池、重要な鉱物、クラウドのプログラムなどがならぶ。自社が直接あつかっていなくても、部品や素材をたどれば、どこかの物資領域にふれている企業は多い。16分野という広がりは、素材から最終の製品までをふくむ。自社の製品が、どの物資につながるかを一度たどってみる価値がある。

事業者は供給確保計画の認定をうけると、国の支援をつかえる。支援の形は一つではない。助成金、ツーステップローン、株式などの引受け、信用の保証がそろう。認定の件数は2026年5月の時点で149件にのぼる。助成の最大額は合計でおよそ1.5兆円、物資を所管する省庁の全体では約2.56兆円の予算が確保された(内閣府)。

国が用意する支援の中身を、目的ごとにならべると輪郭がつかめる。

支援の形主な狙い
助成金生産設備の投資や研究開発の後押し
ツーステップローン設備投資に向けた低利の融資
株式等の引受け大型の投資への資本の供給
信用の保証資金調達の裏づけ

どれも、物資をつくり供給する力を高めるための道具である。国内での生産や、調達先の分散をすすめる企業をささえる。まもる対象は、あくまで『モノ』の流れそのものだ。国全体でみた供給の安定が、この制度のねらいになっている。

供給網を動かす『拠点』は制度の外にある

ここに、見おとされがちな空白がある。制度がささえるのは、生産の設備や研究開発である。個々の拠点が災害や障害でとまったときの、物理的な備えは対象に入らない。建物の防護や、従業員がとどまる待機の空間、水や電源の備蓄がそれにあたる。現場で供給網をとめない備えでありながら、支援の枠の外におかれている。

理由は制度の目的にある。サプライチェーンの強靱化は、海外への依存などで『モノ』が途絶える事態をふせぐ制度だ。ねらいは国全体の供給の安定においている。一方で、一社の事業所が地震や水害で機能をうしなう場面は、各社のBCPの領域にのこる。国が土台をかため、その上で各社が自社の拠点をまもる。制度はこの役割の分担を、暗黙の前提においている。

具体的な例で考えるとわかりやすい。ある部品メーカーの工場が、地震で操業をとめたとする。国の助成は設備の投資をたすけるが、その日の従業員の安全まではまもらない。人が現場にとどまれる備えがなければ、再開はおくれる。供給網の一点の停止が、つながる企業へひろがっていく。ひとつの拠点の弱さが、国が兆円をかけてまもる供給網の弱点にもなりうる。

供給網の裾野ほど、備えが手薄という現実

制度の空白は、企業の備えの現状とかさなると重みをます。帝国データバンクが2025年に実施した調査をみてみる。BCPの策定率は、全体の企業で20.4%だった。はじめて2割をこえたが、規模による差が大きい。

区分BCPの策定率
全企業20.4%
大企業38.7%
中小企業17.1%

大企業が38.7%まですすむ一方、中小企業は17.1%にとどまる。差は21.6ポイントにひらいている(帝国データバンク)。未策定の理由には、専門の知識や人手、時間が足りないという事情がならぶ。供給網の下流ほど、備えがうすいという構造がみえてくる。

備えのうすさは、取引の現場で不利にはたらきはじめている。大きな発注者は、供給網が一社でとぎれる怖さを知っている。だから、事業をとめない体制のある相手をえらぶ動きが強まる。電機大手のNECは、取引先に向けたサプライチェーンBCPのガイドラインを公開している(NEC)。取引先からBCPの状況を問われる場面は、これからふえていく。備えのある企業は、その問いに実物でこたえられる。事業継続の体制は、防災の費用ではなく、取引をまもる競争力の話になりつつある。備えは守りの支出ではなく、選ばれ続けるための投資という位置づけにかわる。

見えない前提を、投資として先におく

ここまでを整理する。国のサプライチェーン強靱化は、『モノ』の流れを兆円の単位でまもる。いっぽうで、供給網を動かす拠点の備えは、各社の自助にのこされたままだ。国の投資が大きくなるほど、拠点がとまらないことは、だれもが当てにする静かな条件になる。それはBCP投資が、経営の見えない前提へとかわっていく流れでもある。

では、経営は何を先においておくべきか。従業員がその場でとどまれる空間をととのえ、建物と設備の防護をすすめる。あわせて、水や電源の備蓄をそなえておく。これらは供給網の一員として選ばれ続けるための足場だ。追い風のあるいまこそ、こうした備えを前向きな投資として計画に組み込みたい。国の強靱化を、自社の備えをすすめる後押しとして使いたい。供給網をまもる主役は国だが、拠点をまもる主役は各社である。その役割を引きうけた企業から、次の取引の信頼を積み上げていく。

出典

  • 内閣府 経済安全保障推進法 サプライチェーン強靱化: https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/supply_chain/supply_chain.html
  • 帝国データバンク 企業の事業継続に係る意識調査(2025年): https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250620-bcp2025/
  • NEC サプライチェーンBCPガイドライン(お取引先様向け): https://jpn.nec.com/purchasing/data/scbcp_guideline_j.pdf
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