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日本でシェルターが普及しない本当の理由 制度の不在という見落とされた壁

日本でシェルターが広がらなかった主因は危機感の差でなく『設置義務という制度の不在』であり、2026年の政府基本方針がその空白を埋める転換点になる、という1主張を底まで掘る。

WiZNAVI 編集部市場・トレンド 担当
2026.06.23READ 6 min

日本でシェルターが普及しない本当の理由 制度の不在という見落とされた壁

日本のシェルター整備は、ほかの国にくらべて長く遅れてきた。その理由を「日本人は平和ボケしているから」と片づける声は多い。本当にそうだろうか。普及した国の歩みを並べると、差を生んだのは意識ではなく制度だと見えてくる。この記事では、普及国に共通する「設置義務」という起点をたどる。そのうえで、日本に欠けていたものを整理し、2026年に動き出した政府方針の意味を読み解く。投資や経営の判断材料として、いまの現在地を冷静につかみたい人に向けた内容だ。

普及した国は、例外なく義務から始まった

シェルターが行きわたった国には、共通の出発点がある。法律で設置を義務づけたことだ。スイスは1962年の法律で、すべての住民の分の避難先を確保するしくみをつくった。自宅に設けない場合は、自治体へ決められた額を払い、公共の施設に席を確保する。つくるか、お金で負担するか。その二択を全員に求める制度である。

イスラエルは1992年の改正で、新築の住宅に耐爆性能をもつ安全室をつくるよう義務づけた。フィンランドは、一定の規模をこえる建物に設置を義務づけている。その多くは建物のなかに組み込まれ、ふだんは駐車場やスポーツ施設として使われている。いずれの国も、個人の善意や危機感には頼っていない。

なぜ義務が効くのか。防護という備えは、自分だけ用意しても効きめが限られる性質をもつ。だから個人任せにすると、だれも十分には備えない。みんなで足並みをそろえる義務があってはじめて、社会全体に行きわたる。普及するかどうかを分けた最大の変数は、ここにあった。下の表は、普及国の起点と平時の使い道を並べたものだ。

義務化の起点平時の使い道整備の到達点
スイス1962年の法律で全住民分を義務化ワインセラー・倉庫人口を上回る席数を確保(収容率107%)
イスラエル1992年改正で新築住宅に安全室を義務化寝室・書斎として日常利用新築に標準で内蔵
フィンランド一定規模以上の建物に設置を義務化駐車場・スポーツ施設・地下鉄人口の大半をまかなう規模
日本設置義務の法律なし(2026年に方針転換)これから設計する段階全市区町村カバー率100%を目標化

表からわかるのは、普及した国ほど義務と平時の使い道をセットで用意してきたことだ。義務が整備をうながし、平時の価値が住民の納得をささえた。片方だけでは、ここまで行きわたらなかった。

日本は義務を持たないまま市場任せだった

ひるがえって日本はどうか。設置を義務づける法律が、長いあいだ無かった。整備は市場と個人の判断に任され、前へすすめる力が働きにくい。そこへ都市部の土地の高さと、工事費の重さがかさなる。普及するための前提が、そもそも整っていなかった。

市場任せには、もうひとつの弱さがある。需要が表に出にくいことだ。買う人が動かないと、つくる側も投資をためらう。供給がそろわなければ、買う人はますます動かない。鶏と卵のように、両方が様子を見たまま時間だけが過ぎていく。義務は、この行きづまりを外から押し開くスイッチになる。

日本人の意識が低いから広がらない。その見方は、ここで揺らぐ。義務があった国は普及し、なかった国は遅れた。意識の高い低いより、制度の有無のほうが結果をうまく説明する。普及率の正確な数字には不確かなものが多く、本稿では言い切らない。それでも整備の遅れという事実は、制度設計の差として読むほうが筋が通る。

2026年、制度がはじめて動き出した

潮目が変わったのは2026年だ。政府は同年3月31日、避難シェルター確保の基本方針を閣議決定した。2030年度までに、すべての市区町村で人口カバー率100%をめざす方針をかかげる。いまはおよそ2割の自治体が未達とされ、ここから整備を急ぐ構図になった。

方針の中身は、避難所づくりにとどまらない。有事と災害の兼用や、すでにある地下空間の活用も打ち出した。民間との連携や、地下を重く見る姿勢もにじむ。住んでいる人だけでなく、昼間に集まる人の数に対しても、カバー率100%をめざすという。大きな建物への容積率の緩和など、整備を後押しする奨励策も検討されている。

注目したいのは、発想が「避難所」から「平時にも使える防護空間」へと広がった点だ。日常で役に立つ設計は、普及国がそろって備えていた条件でもある。長く欠けていた制度の追い風が、ようやく吹きはじめた。日本はいま、海外の普及モデルと同じ方向へ舵を切ろうとしている。

いま読み取るべきこと

普及を決めるのは、危機感ではなく制度だ。義務という起点と、平時に使える設計。この2つを備えた国が、シェルターを社会に根づかせてきた。日本はようやく、その入口に立った。

ここで意識したいのは、流れの順番だ。制度が動くと、需要がじわりと立ち上がる。需要が見えてから動くのでは、選べる立地も供給も限られてしまう。先を読む側にとって、制度が動き出すいまは準備の好機になる。

具体的には、自社の拠点や事業継続の観点から、防護をどう位置づけるかを早めに整理しておきたい。立地や地下空間の使い方、平時の用途まで含めて考えると、投資の意味づけが変わってくる。海外の例も参考になる。ワインセラーや寝室、駐車場など、ふだんの使い道を先に決めた国ほど、整備がなめらかに進んできた。日本でも、平時にどう生かすかをはじめに描けるかどうかが、ひとつの分かれめになる。怖さで身構えるよりも、前向きな備えとして現在地を見極めたい。

出典

  • スイス(連邦民間防護法・収容率107%): https://www.swissinfo.ch/eng/business/switzerland-wants-to-phase-out-need-for-bunkers-in-private-homes/48470782
  • イスラエル(安全室mamadの義務化): https://www.jpost.com/business-and-innovation/energy-and-infrastructure/article-899077
  • フィンランド(設置義務・平時活用): https://valtioneuvosto.fi/en/-/1410869/finland-has-civil-defence-shelters-for-about-4.8-million-people
  • 日本の基本方針(2026年3月31日閣議決定): https://www.jiji.com/jc/article?k=2026033100386&g=pol
  • カバー率100%目標・約2割未達: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA193UC0Z10C26A3000000/
  • 民間連携・地下重点・昼間人口へのカバー: https://news.yahoo.co.jp/articles/02bdec58c83e2ed2f4c4bbf119107f0e5bc30fe0
  • 容積率緩和などの奨励策(関係府省連絡会議): https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shelter/dai4/gijishidai.pdf
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