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BCP・防災

南海トラフ地震に備える企業BCP — 発生確率60〜90%時代の実践的対策

2026年4月16日11分で読了強靭化Bizナビ編集部

南海トラフ地震の30年以内の発生確率が「60〜90%以上」に見直され、想定被害額は292兆円——。もはや「起きるかどうか」ではなく「いつ起きるか」の問題だ。2026年5月下旬には防災気象情報が刷新され、南海トラフ地震臨時情報のガイドラインも2025年8月に改訂された。本記事では、企業が具体的にどう備えるべきか、臨時情報発表時の対応フローを含めて実践的に解説する。

南海トラフ地震の最新リスク評価

発生確率の見直し:「60〜90%以上」

日本経済新聞の報道(2025年9月)によると、政府の地震調査委員会は2025年9月26日、南海トラフ地震の30年以内の発生確率について予測手法を見直し、従来の「80%程度」から「60〜90%程度以上」と「20〜50%」という2つの想定を併記する形に変更した。

この見直しの背景には、地震の発生間隔を推定する手法によって確率が大きく変わるという科学的な不確実性がある。サイエンスポータルの報道(2025年1月)によれば、2025年1月15日時点では「80%程度」に引き上げられていたが、その後の議論を経て幅を持たせた表記となった。

いずれにしても、30年以内の発生確率が最低でも20%、最高で90%以上という数字は、企業がBCP策定を先送りできる水準ではない。

想定被害:経済損失292兆円

国土交通省の白書によると、南海トラフ巨大地震(M9クラス)が発生した場合の被害想定は以下の通りだ。

  • 死者数:最大約29万8,000人
  • 経済的被害・影響額:約292兆円
  • 全壊・焼失棟数:約238.6万棟
  • 浸水面積:約1,015平方キロメートル
企業のBCP策定と事業継続計画のイメージ

2026年5月下旬:防災気象情報の刷新

気象庁の公式ページによると、2026年5月下旬から防災気象情報の体系が大きく変更される。気象業務法と水防法の改正に伴う変更で、企業の防災対応にも直接影響する。

主な変更点

  • 名称の統一:4種類の災害(河川氾濫、大雨、土砂災害、高潮)ごとに、警戒レベルと名称を併記する形に統一
  • 新たな「危険警報」の創設:レベル4に「危険警報」が新設される。従来の「避難指示」に相当する切迫度を、気象庁が独自に発表する形になる
  • レベル表記の明確化:レベル5「特別警報」、レベル4「危険警報」、レベル3「警報」、レベル2「注意報」と、数字を見るだけで行動が分かる体系に

東京海上ディーアールのコラムでは、「企業は新たな情報体系を反映させてBCPの発動基準を見直す必要がある」と指摘している。特に「レベル4・危険警報」が発表された場合にどの部門がどの対応を取るかを、事前に定めておくべきだ。

南海トラフ地震臨時情報 — 企業の対応フロー

ニュートン・コンサルティングの解説および政府広報オンラインによると、南海トラフ地震臨時情報は以下の4つのキーワードで発表される。

臨時情報の4段階

  1. 調査中:南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、評価を開始した段階
  2. 巨大地震警戒:南海トラフ沿いの一部で大規模地震(M8.0以上)が発生した場合。地震発生から最短約2時間後に発表
  3. 巨大地震注意:M7.0以上の地震が発生、またはプレート境界の固着状態に変化が示唆される場合
  4. 調査終了:評価の結果、大規模地震の可能性が相対的に高まったとは認められない場合

「巨大地震警戒」発表時の企業対応フロー

内閣府が2025年8月に改訂した「南海トラフ地震臨時情報防災対応ガイドライン」を踏まえ、企業が取るべき対応フローは以下の通りだ。

即時対応(発表後0〜2時間)

  • 危機管理対策本部の設置
  • 全従業員への臨時情報の伝達
  • 対象地域の拠点の安全確認
  • 顧客・取引先への第一報連絡

短期対応(発表後2〜24時間)

  • 従業員の安全確保措置(津波浸水想定区域の拠点からの退避等)
  • 重要データのバックアップ確認
  • サプライチェーンの代替ルート確認
  • 在庫・燃料の追加確保の指示

継続対応(1日〜1週間)

  • 事前避難対象地域での事業縮小・一時停止の判断
  • リモートワーク体制への移行
  • 出張・移動の制限
  • BCP発動基準の再確認と周知
事業継続とリスク管理のイメージ

BCPが「機能しない」5つの典型パターン

リスク対策.comの分析や能登半島地震の教訓を踏まえ、企業BCPが機能しない典型的なパターンを整理する。

  1. 「全員出社」を前提にしている:従業員自身が被災者となるケースを想定していない。能登半島地震では、道路寸断や家屋被害で出社不能となった従業員が多発した。
  2. 策定後一度も訓練していない帝国データバンクの調査によると、BCPを策定しても「機能した」と感じた割合は従業員100人以下の企業で29.4%にとどまる。訓練未実施が主因だ。
  3. 臨時情報への対応が未整備:「巨大地震警戒」が発表された場合にどの部門がどう動くかを定めていない企業が多い。ガイドラインの改訂内容を反映していないBCPは実質的に「未策定」と同じだ。
  4. サプライチェーンの代替計画がない:自社の復旧計画だけでは不十分で、取引先・仕入先が被災した場合の代替計画が必要だ。
  5. 資金繰り計画が未検討:被災後の事業中断による売上減少と、復旧費用の二重負担に対する資金計画がないケースが多い。

実践的なBCP策定・見直しの手順

ステップ1:リスクの特定と優先順位付け

自社の所在地が南海トラフ地震の津波浸水想定区域に含まれるかを確認する。地震本部の南海トラフ地震の情報ページで想定震度分布を確認できる。

ステップ2:中核事業と目標復旧時間の設定

すべての事業を同時に復旧させることは不可能だ。「どの事業を何日以内に復旧させるか」を経営判断として明確にする。

ステップ3:臨時情報対応フローの策定

上記の対応フロー(即時・短期・継続)を自社の体制に合わせて具体化する。担当者名・連絡先・判断基準を明記する。

ステップ4:訓練の実施

年最低1回、臨時情報発表を想定した机上訓練を実施する。「巨大地震警戒」が発表されたと仮定し、対応フローを時系列でシミュレーションする。

ステップ5:事業継続力強化計画の認定取得

中小機構のハンズオン支援事業を活用すれば、無料でBCP策定と認定申請のサポートが受けられる。認定後は補助金での加点措置が得られるため、投資回収にも直結する。

AI活用でBCP策定のハードルを下げる

東京商工会議所は2026年1月、AIを活用したBCP策定支援システム「SONAE-AI(ソナエアイ)」の提供を開始した。企業情報をアップロードするだけで、AIがBCPの下書きを自動生成する無料サービスだ(東京商工会議所会員限定)。

3つのコース(首都直下地震編の入門版、オールハザード簡易版、オールハザード基本版)が選択でき、AIアシスタントによる策定中の相談機能も備えている。BCP策定率がわずか28.0%にとどまる中小企業にとって、策定の第一歩を踏み出すための有力なツールだ。

リスク分析とBCP策定のイメージ

まとめ — 「起きてから」では���い

南海トラフ地震の発生確率は最大90%以上。想定被害額292兆円。この数字を「まだ先のこと」と捉えるか、「いつ起きてもおかしくない」と捉えるかで、企業の存続が決まる。

2026年5月の防災気象情報刷新と、南海トラフ地震臨時情報ガイドラインの2025年8月改訂は、企業に対して「BCPの発動基準と対応フローを今すぐ更新せよ」というメッセージだ。

BCP策定に着手していない企業は、まず東京商工会議所の「SONAE-AI」や中小機構の無料支援を活用して第一歩を踏み出すべきだ。すでにBCPがある企業は、臨時情報対応フローの追加と、「全員出社不能」を前提とした訓練の実施を推奨する。

強靭化Bizナビ編集部

国土強靱化・防災ビジネスに特化した専門メディア「強靭化Bizナビ」の編集チーム。政策動向、市場分析、補助金情報、導入事例など、ビジネスパーソンの意思決定に役立つ情報を配信しています。