豪雨で増水した河川と浸水リスクに備える街並み
BCP・防災

水害版BCPの作り方 — 気候変動で激甚化する豪雨・浸水に中小企業はどう備えるか

2026年5月29日7分で読了

地震対策のBCPは作ったが、豪雨・浸水への備えはほぼ手つかず——。中小企業の事業継続計画(BCP)では、いまだに「地震ありき」の内容が多く、水害が抜け落ちているケースが少なくありません。気候変動で豪雨が激甚化し、火災保険の水災料率まで地域別に細分化された今、地震とは別の発想で備える「水害版BCP」が建設業・中小企業に求められています。本記事では、水害BCPがなぜ地震BCPと違うのか、タイムライン型の作り方、使える国・自治体の制度までを実在データで整理します。

豪雨で増水した河川と浸水リスクに備える街並み

1|なぜ今「水害版BCP」なのか

1-1 豪雨はもはや「想定外」ではない

近年の風水害は、企業の事業継続を脅かす最大級のリスクになっています。日本損害保険協会の調査によると、過去の風水害による支払保険金で最も大きかったのは2018年(平成30年)の台風21号で1兆678億円、支払件数は約48万件に達しました。関西国際空港の冠水が象徴的だったこの災害をはじめ、2018年度・2019年度は風水害を中心に2年連続で支払保険金が1兆円を超えています。

※出典:日本損害保険協会「近年の風水害等による支払保険金調査結果(見込み含む)」https://www.sonpo.or.jp/report/statistics/disaster/weather.html

これらは「数十年に一度」の異常ではなく、気候変動を背景に頻発・激甚化している現象です。地震が予測できないのに対し、豪雨は気象予測で数日前から接近が分かる——この違いが、水害版BCPを地震BCPと別物にします。

1-2 保険料率まで「浸水リスク」で差がつく時代に

水害リスクの高まりは、保険のしくみにも表れています。火災保険の水災補償の保険料率は、これまで全国一律でしたが、2024年10月から市区町村単位で5段階に細分化されました。リスクの低い1等地は細分化しない場合と比べて約6%低下する一方、リスクの高い5等地は約9%上昇します。

項目内容
適用開始2024年10月(新規・更新契約から)
区分市区町村単位で5段階(1等地〜5等地)
1等地(低リスク)細分化しない場合比 約6%低下
5等地(高リスク)細分化しない場合比 約9%上昇

※出典:SBIの火災保険比較「火災保険の水災部分の保険料が細分化へ どう変わる?」https://kasai.insweb.co.jp/saisai-saibunka/

建設業者にとっての示唆
自社の事業所・資材置き場・倉庫がどの等地に当たるかは、立地の浸水リスクそのものです。保険料率は「行政が定めたハザード評価の通信簿」とも言え、水害版BCPで自社拠点のリスクを見直す格好のきっかけになります。

2|水害版BCPは「タイムライン」で考える

2-1 地震BCPとの決定的な違い

内閣府の事業継続ガイドライン(令和5年3月版)でも、BCPは地震・水害・感染症など事象ごとに想定を変える「リスクシナリオ」の考え方が示されています。地震は突発的に発生するため「発災直後の初動」が勝負ですが、水害は接近が予測できるため、発災の前にどれだけ動けるかが被害を左右します。

※出典:内閣府防災担当「事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和5年3月)」https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf

そこで水害版BCPでは、気象情報や河川水位の段階に応じて「いつ・誰が・何をするか」を時系列で決めておくタイムライン(防災行動計画)型が中心になります。

2-2 タイムラインの基本構成

中小企業庁のBCP策定運用指針でも、建設業や製造業の水害シナリオが用意されています。これを踏まえた水害版BCPのタイムラインは、おおむね次の3段階で組み立てます。

段階トリガー(目安)主な行動
事前対策平常時ハザードマップ確認 / 重要設備の2階以上への配置 / 止水板・土のうの備蓄 / データの遠隔バックアップ
直前対応大雨・洪水警報、台風接近止水板設置 / 車両・資材の高所退避 / 在庫の上層階移動 / 従業員の早期帰宅・出社判断
発災・復旧浸水発生後安否確認 / 取引先への状況連絡 / 排水・清掃 / 設備点検と復旧の優先順位付け

※出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 BCP-(6)建設業(水害)」https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_08_04_6.html

2-3 「動かせる時間」を逆算する

水害版BCPの肝は、トリガーから行動完了までの所要時間を逆算しておくことです。たとえば「止水板の設置に2人で30分」「2階への在庫移動に4人で2時間」とわかっていれば、警報のどの段階で従業員を残すべきかが具体的に決まります。地震BCPの「何を守るか」に対し、水害BCPは「いつ動くか」を決める計画だと押さえると抜け漏れが減ります。

3|建設業ならではの水害BCPの論点

3-1 自社の継続と「地域の復旧の担い手」の二重の役割

建設業者は水害時、自社の事業継続だけでなく、被災地域の応急復旧・排水・道路啓開の担い手という顔も持ちます。重機・燃料を自社が浸水で失えば、地域復旧にも穴が開きます。水害版BCPでは、重機や燃料を浸水想定区域の外に分散配置できないかという視点が重要です。

3-2 資材・在庫の水濡れリスク

建材・電材・木材は、建物が全壊しなくても床上浸水で水濡れすれば商品価値を失います。「建物の被害は軽微でも在庫がダメになり納品できない」というのは、水害特有の被害パターンです。在庫の保管階・防水梱包・仕入先の代替確保まで含めて計画に落とし込みます。

チェックの起点はハザードマップ
水害版BCPの第一歩は、本社・各現場事務所・資材置き場の所在地を国土交通省や自治体のハザードマップで重ね、浸水想定の深さを把握することです。深さ別(0.5m未満/3m未満/3m以上)で取るべき対策が変わります。

4|水害BCPを「国の認定」と「自治体の助成」につなげる

4-1 事業継続力強化計画の認定は約9万件に

水害を含む防災・減災の事前対策をまとめたら、国の「事業継続力強化計画」の認定につなげるのが王道です。中小企業庁によると、認定の累計件数は令和7年(2025年)12月末時点で92,523件(うち連携型1,742件)に達し、令和2年度以降は毎年1万件を超えるペースで増えています。

※出典:中小企業庁「事業継続力強化計画」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html

認定を受けると、防災・減災設備の特別償却(取得価額の16%)、日本政策金融公庫の低利融資、ものづくり補助金等での加点といった支援が受けられます。水害対策で導入する排水ポンプ・止水設備・自家発電・データバックアップ機器は、この特別償却の対象になり得ます。

4-2 自治体の設備助成と組み合わせる

事業継続力強化計画の認定は、自治体助成金の前提条件にもなります。代表例が東京都中小企業振興公社の「BCP実践促進助成金」で、令和8年度(2026年度)の第1回募集(5月13日〜19日)に続き、第2回募集が9月9日〜15日、第3回募集が令和9年1月8日〜15日に予定されています。助成率は中小企業1/2以内・小規模企業2/3以内です。

募集回申請受付期間(令和8年度)
第1回令和8年5月13日(水)〜19日(火)※受付終了
第2回令和8年9月9日(水)〜15日(火)
第3回令和9年1月8日(金)〜15日(金)

※出典:東京都「BCP実践促進助成金 募集」(2026年4月15日)https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/04/2026041501

申請は電子申請システム「Jグランツ」で行うため、GビズIDプライムアカウントの取得が必要です。受付期間が1週間と短いため、計画と認定を先に整えておくことが採択への近道です。

※出典:東京都中小企業振興公社「BCP実践促進助成金」https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/bcp.html

5|中小企業はどこまで備えているか

5-1 「やっていること」と「水害対応」のギャップ

2025年版中小企業白書によると、中小企業の事業中断リスクへの取組は、「従業員の安否確認手段の整備」が65.1%、「情報システムのバックアップ」が54.1%、「緊急時の指揮・命令系統の構築」が38.4%の順で実施・検討されています。

※出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第4節 BCP」https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_2_4.html

これらは安否確認やデータ保全といった「どの災害にも共通する備え」が中心で、止水設備や在庫の高所退避といった水害特有の物理対策はまだ手薄な傾向がうかがえます。同白書は、BCP未策定の理由として「スキル・ノウハウがない」「人材を確保できない」といったリソース不足が高い割合を占めると指摘しています。水害版の不足は、まさにこのノウハウ不足の表れと言えます。

5-2 まずは1枚のタイムラインから

水害版BCPは、立派な文書をいきなり目指す必要はありません。自社拠点のハザードマップ確認 → 守る対象(重機・在庫・データ・人)の洗い出し → トリガー別の行動を1枚のタイムラインに整理する、ここから始められます。それを事業継続力強化計画の認定申請に乗せれば、税制優遇や自治体助成へと一気につながります。

6|まとめ

この記事のポイント

  • 風水害の支払保険金は過去最大で1兆678億円(2018年台風21号)、激甚化は「想定外」ではなく前提に
  • 火災保険の水災料率は2024年10月から市区町村単位で5段階に細分化、立地の浸水リスクが料率に直結
  • 水害BCPは地震BCPと違い、予測可能性を活かした「タイムライン型」で、いつ動くかを逆算して決める
  • 建設業は自社継続と地域復旧の二重の役割。重機・燃料の分散配置と在庫の水濡れ対策が要点
  • 事業継続力強化計画の認定は約9万件(令和7年12月末92,523件)、税制優遇・自治体助成への入口
  • 東京都BCP実践促進助成金は令和8年度第2回が9月9〜15日、第3回が令和9年1月8〜15日。Jグランツで申請

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WiZNAVI 編集部

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