地震や豪雨で道路が寸断され、夜間や雲に覆われて上空からの確認もできない——そんな災害初動の「最初の数時間」を、地上ではなく宇宙から埋めようという動きが2026年に加速しています。雲も夜も通り抜けて地表を撮影できる「小型SAR(合成開口レーダー)衛星」が、国産企業の手で次々と打ち上げられ、被災状況の把握やインフラ監視に実戦投入され始めました。本記事では、政府の整備計画と民間の最新動向を一次情報で整理し、国土強靱化の現場に何が起きているのかを読み解きます。
1|なぜいま「SAR衛星×防災」なのか
1-1 雲も夜も貫通する「合成開口レーダー」の強み
災害の被害把握に使う衛星には、大きく分けて「光学衛星」と「SAR衛星」があります。光学衛星は人間の目に近い画像を撮りますが、夜間や雲の下は見えません。一方のSAR(Synthetic Aperture Radar=合成開口レーダー)衛星は、自ら電波を地表に当てて跳ね返りを捉えるため、夜間や悪天候でも観測が可能です。台風や豪雨のさなか、あるいは発災直後の夜間といった「最も知りたいのに見えない」時間帯に強いのが、防災用途で注目される最大の理由です。
SAR衛星は災害前後の観測データを比較することで、広範囲の被害地域の状況を迅速に把握できます。地盤の変動や建物の傾き・崩壊、浸水範囲などを面的に検知できる点が、地上調査では代替しにくい価値となっています。
※出典:JAXA「ユースケース:Synspective」資料を見る
1-2 能登半島地震が突きつけた「頻度の壁」
2024年1月の能登半島地震は、SAR衛星の有用性と同時に「観測頻度の不足」という課題も浮き彫りにしました。内閣府宇宙開発戦略推進事務局の資料によれば、国産の民間小型SAR衛星コンステレーション(QPS研究所・Synspective)の撮像頻度は、能登半島地震の発生時点(2024年1月)では1日1回〜数日に1回という低い水準にとどまっていました。被害が刻々と変わる発災直後に、同じ場所を何度も見直すことが難しかったのです。
※出典:内閣府宇宙開発戦略推進事務局「衛星リモートセンシングデータの実装加速に向けた取組」資料を見る
2|政府が描く撮像頻度の引き上げロードマップ
2-1 「1日数十回」観測への高頻度化目標
この「頻度の壁」を越えるため、政府は衛星の機数増加による高頻度化を計画として掲げています。内閣府の資料では、撮像頻度の到達目標が次のように示されています。
| 時点 | 撮像頻度(同一地点の観測回数) |
|---|---|
| 能登半島地震 発生時(2024年1月・実績) | 1日1回〜数日に1回 |
| 2025年度末(目標) | 計20回程度/日 |
| 2027年度末(目標) | 約80回以上/日 |
衛星の機数が増えるほど同じ場所を短い間隔で繰り返し撮影できるようになり、災害などの緊急時に状況の変化を追いかける「準リアルタイム」に近い監視が可能になっていきます。政府はこの高頻度化を、災害時の迅速な状況把握に有効なツールへの成長と位置づけています。
※出典:内閣府宇宙開発戦略推進事務局「衛星リモートセンシングデータの実装加速に向けた取組」資料を見る
「頻度」がなぜ命を分けるのか
被災状況は数時間単位で変わります。1日1回の観測では「昨日の状況」しか分からず、救助や復旧の判断が遅れます。同じ場所を1日数十回見られるようになれば、浸水の拡大や土砂の移動をほぼ追いかけられ、救助・避難・物資輸送の優先順位を最新の事実に基づいて決められるようになります。
3|国産2社が引っ張る小型SAR衛星コンステレーション
3-1 QPS研究所:2025年12月に15号機、2026年6月以降に次号機
福岡発の宇宙ベンチャー・QPS研究所は、小型SAR衛星「QPS-SAR」を連続的に打ち上げています。2025年12月21日(日本時間)にはQPS-SAR15号機「スクナミ-Ⅰ」を打ち上げ、初交信に成功しました。さらにQPS-SAR13号機「ミクラ-Ⅰ」の打ち上げが2026年6月以降に予定されており、機数拡大が続いています。
※出典:QPS研究所(PR TIMES)「QPS-SAR15号機『スクナミ-Ⅰ』が打ち上げられ、初交信に成功しました」リリースを見る
QPS研究所は最終的に36機のコンステレーション(衛星群)を構築し、世界中のほぼどんな場所でも特定地域を平均約10分間隔で観測できる「準リアルタイムデータ提供サービス」を目指しています。約10分ごとに同じ場所を見られれば、地形や建物の変化を高頻度で検知でき、災害発生時の被害状況の把握や大型インフラの経年劣化検知への活用が見込まれます。
※出典:QPS研究所「QPS-SAR PROJECT」プロジェクトを見る
3-2 Synspective:防衛省コンステレーションへ参画(2026年2月)
東京発のSynspective(シンスペクティブ)も小型SAR衛星「StriX」を運用しています。同社は2026年2月20日、三菱電機・SKY Perfect JSAT・三井物産が設立した特別目的会社「Tri-Sat Constellation」を通じて、防衛省の衛星コンステレーション整備プロジェクトに参画したと発表しました。同プロジェクトの契約期間は2026年2月19日〜2031年3月31日です。安全保障用途が中心ですが、StriXは平時の防災・災害分野でも浸水被害評価や被害状況把握のソリューションに使われており、国産SAR基盤全体の厚みを増す動きといえます。
※出典:Synspective「Synspective Joins Ministry of Defense Satellite Constellation Project」リリースを見る
4|「データを使える形にする」基盤側の最新動向
4-1 New Space Intelligenceが4.3億円を調達(2026年4月)
衛星を「上げる」だけでなく、撮ったデータを実務で「使える」状態に整える基盤づくりも進んでいます。衛星データ基盤を開発する株式会社New Space Intelligence(NSI)は、2026年4月、シリーズAラウンドで総額4.3億円の資金調達を実施したと発表しました。リードインベスターはパートナーズファンドで、地図・通信・交通・金融など多様な領域の戦略投資家が参加しています。
※出典:New Space Intelligence(PR TIMES)「シリーズAラウンドにて総額4.3億円の資金調達を実施」リリースを見る
4-2 鉄道・道路・電力インフラの監視と災害監視
NSIは、衛星SAR・光学データを用いた鉄道・道路・電力などインフラのモニタリングに加え、災害・地盤変動・不法投棄監視のサービスを提供しています。同社の基盤は、衛星画像の校正やAIによる品質評価・補正、複数衛星のデータを組み合わせて高頻度・低コスト・観測継続性を実現する技術が特徴です。また同社はJAXAの宇宙戦略基金(第2期)「衛星データ利用システム実装加速化事業」に採択されており、2030年9月までの実装が予定されています。複数の衛星と地上の解析基盤がつながることで、SAR衛星のデータが防災の現場で「すぐ判断に使える情報」へと近づいています。
※出典:New Space Intelligence(PR TIMES)「シリーズAラウンドにて総額4.3億円の資金調達を実施」リリースを見る
5|建設業・自治体は何を準備すべきか
5-1 「地上が動けない時間」を埋める発想を持つ
建設業者や自治体の防災担当にとって重要なのは、SAR衛星を「自分で打ち上げる技術」としてではなく、地上の調査員やドローンが動けない時間帯・エリアを補完する選択肢として理解しておくことです。発災直後の夜間や荒天時、広域の浸水把握、インフラの変位監視といった場面で、衛星データの提供サービスを活用する余地が広がっています。
5-2 残る課題:現場判断との接続とコスト
一方で、普及にはまだ課題があります。
- 頻度はまだ発展途上:「1日数十回」「平均10分間隔」は目標であり、機数拡大の途上にある
- 解析人材と現場判断の接続:衛星画像を復旧優先度や避難判断にどう翻訳するかの体制づくり
- コストと調達経路:自治体・民間がデータ提供サービスをどう契約・予算化するか
これらは、政府の高頻度化ロードマップと、NSIのような基盤側企業の成長がかみ合うことで、今後数年で着実に解消へ向かうと見込まれます。
6|まとめ
この記事のポイント
- 小型SAR衛星は夜間・悪天候でも観測でき、災害前後の比較で被害を面的に把握できる
- 能登半島地震時の撮像頻度は1日1回〜数日に1回にとどまり、頻度不足が課題だった
- 内閣府は撮像頻度を2025年度末に約20回/日、2027年度末に約80回以上/日へ高頻度化する目標を提示
- QPS研究所は2025年12月に15号機を打ち上げ、36機体制で平均約10分間隔の観測を目指す(次号機は2026年6月以降)
- Synspectiveは2026年2月に防衛省コンステレーションへ参画、基盤側のNSIは2026年4月に4.3億円を調達
WiZNAVIでは、国土強靱化を支える防災テクノロジーの最新動向を、一次情報にもとづいて継続的にお伝えします。衛星・データ基盤の進化が、建設業や自治体の災害対応をどう変えていくのか、引き続き注視していきます。
WiZNAVI 編集部
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