先島諸島の地下シェルター整備と第2次集中取組期間によるシェルター実装フェーズを解説する記事
シェルター

シェルター整備、いよいよ実装フェーズへ — 令和8〜12年度「第2次集中取組期間」と先島諸島5市町村の地下施設工事

2026年5月29日7分で読了

2026年3月31日の「シェルター確保基本方針」閣議決定で、国のシェルター整備は「方針づくり」から「実装」へと局面が変わりました。全国の指定を令和8〜12年度の「第2次集中取組期間」で一気に進める一方、沖縄・先島諸島の5市町村では国の補助率9割で地下シェルターの設計・工事が現実に動き出しています。本記事では、基本方針の閣議決定後に明らかになった具体的な整備計画と、建設・設備業者が押さえるべき需要の中身を、内閣官房・消防庁・防衛省の一次資料に沿って整理します。

地下シェルターの整備工事と防災インフラのイメージ

1|「方針決定」から「実装」へ — いま何が動いているか

1-1 第4回連絡会議で固まった実装の枠組み

政府は2026年3月31日、武力攻撃や大規模災害を想定した避難施設(シェルター)の確保に関する基本方針を閣議決定しました。同日に開かれた「武力攻撃を想定した避難施設(シェルター)の確保に係る関係府省連絡会議(第4回)」では、基本方針本体に加えて、「特定臨時避難施設の整備について」「緊急一時避難施設の更なる指定促進について」といった、より踏み込んだ実装資料が配付されました。基本方針が「目標」を示したのに対し、これらの資料は「いつ・どこで・誰が・いくら補助して」整備するかを具体的に示すものです。

※出典:内閣官房「武力攻撃を想定した避難施設(シェルター)の確保に係る関係府省連絡会議(第4回)議事次第・配付資料」(令和8年3月31日)内閣官房ホームページ

1-2 基本方針が定めた5つの「当面講ずべき措置」

閣議決定された「緊急事態を想定した避難施設(シェルター)の確保に関する基本方針」では、第3章で当面講ずべき措置として次の5つが整理されています。

区分当面講ずべき措置
1全国的な緊急一時避難施設の指定促進
2緊急一時避難施設の充実(備蓄・滞在機能)
3自然災害時とのデュアルユースと官民連携の具体化
4最善の避難行動の実効性向上
5特定臨時避難施設の整備と運用等ガイドラインの作成

従来の「都道府県単位・公共施設中心・夜間人口ベース」という枠組みから、「市区町村単位・官民連携・昼間人口も視野」へと考え方を発展させた点が、今回の基本方針の核心です。

※出典:内閣官房「緊急事態を想定した避難施設(シェルター)の確保に関する基本方針について」(令和8年3月31日閣議決定)基本方針本文(PDF)

2|数字で見る現在地 — 令和7年4月1日時点の指定状況

2-1 緊急一時避難施設は6万カ所超、地下は4,233カ所

実装フェーズの出発点となるのが、内閣官房・消防庁・内閣府が公表した最新の指定状況です。令和7年(2025年)4月1日時点で、緊急一時避難施設は全国で61,142カ所。前年度比+2,553カ所(+4.4%)、集中取組期間が始まった令和3年度比では+9,148カ所(+17.6%)と着実に増えています。

指標(令和7年4月1日時点)数値前年度比
緊急一時避難施設 総数61,142カ所+2,553カ所(+4.4%)
うち地下施設4,233カ所+307カ所(+7.8%)
人口カバー率(全国計)155.2%+15.5ポイント
地下施設の人口カバー率5.5%+0.8ポイント

人口カバー率は全国計で155.2%に達した一方、地下施設の人口カバー率はわずか5.5%にとどまります。爆風や破片からの防護に有効な地下施設をいかに増やすかが、次の5年間の最大の課題です。

※出典:内閣官房・消防庁・内閣府「緊急一時避難施設の指定状況(令和7年4月1日時点)」指定状況分析結果(PDF)

2-2 地下施設は4年で3倍超に

地下施設は令和3年度の1,278カ所から令和7年度の4,233カ所へと、4年間で約3.3倍(+231.2%)に増えました。地下駅舎・地下街・大規模建築物の地下駐車場といった既存空間の指定が進んだ結果です。令和3〜7年度の「集中取組期間」が一定の成果を上げたことが、数字からも確認できます。

「集中取組期間」とは
緊急一時避難施設、特に地下施設の指定を加速するため、政府が令和3年5月に設定した期間(令和3〜7年度の5年間)。各指定権者による対象施設の「総点検」や「重点取組分野」の設定などが行われました。この第1期が終わり、いよいよ次の5年間(第2次)に入ります。

3|第2次集中取組期間(令和8〜12年度)— 全国の指定はこう進む

3-1 市区町村単位カバー率100%へ、3つの取組

基本方針を受けて、消防庁は令和8年3月31日付で、指定権者(都道府県・政令指定都市)に対し更なる指定促進の通知を発出しました。令和8年度から令和12年度までを「第2次集中取組期間」と位置づけ、管内各市区町村の人口カバー率100%達成を目標に、次の3つの取組を進めるとしています。

  1. 施設類型に応じたきめ細やかな指定 — 民間施設等を所管する関係府省庁から関係団体へ情報提供・協力依頼を行い、各指定権者の取組を後押し
  2. 防災分野と連携した施設の指定 — 自然災害時の帰宅困難者向け一時滞在施設となっている民間施設を、緊急一時避難施設としても指定促進(デュアルユース)
  3. 国が管理・所管する施設の指定 — 指定可能な国有施設の候補をリスト化し、各指定権者へ提供

※出典:消防庁「緊急一時避難施設の更なる指定促進について」(令和8年3月31日、関係府省連絡会議第4回 資料5)内閣官房ホームページ

3-2 民間の参画を促す「容積率緩和」と「表彰制度」

民間施設の活用を進めるため、基本方針は奨励策の検討も明記しています。具体的には、滞在機能(水・食料・簡易ベッド等の備蓄)の充実を「令和の国土強靱化対策」と連携して促すほか、大規模建築物の容積率の緩和等の奨励策を検討するとしています。さらに内閣府は、緊急一時避難施設の確保への協力を含めた企業・団体の防災への取組を評価する新たな表彰制度の検討を進めると表明しました。

建設・設備業者にとっての意味
容積率緩和が具体化すれば、ビルオーナーや開発事業者が地下空間をシェルター対応で計画する動機になります。設計段階からシェルター要件(堅ろうな構造・備蓄スペース・換気設備)を織り込める事業者には、再開発・新築案件での差別化余地が生まれます。

4|先島諸島5市町村 — 国費9割で動く具体プロジェクト

4-1 「特定臨時避難施設」とは何か

全国的な指定促進とは別に、避難の困難性が高い地域では、より頑丈な「特定臨時避難施設」の整備が進んでいます。これは武力攻撃災害から人の生命・身体を守る機能を備え、広域避難が完了するまでの一定期間(2週間程度)避難できる堅ろうな施設です。輸送手段が航空機・船舶に限られ、避難先が遠距離にあるといった要件を満たす地域が対象で、具体的には沖縄・先島諸島の5市町村(与那国町・竹富町・石垣市・多良間村・宮古島市)で整備が進められています。

※出典:内閣官房・消防庁・防衛省「特定臨時避難施設の整備について」(令和8年3月、関係府省連絡会議第4回 資料4)内閣官房ホームページ

4-2 各市町村の整備内容と進捗

5市町村は、いずれも公共・公用施設の地階を平時は会議室や駐車場として使い、有事には避難スペースに転用する設計です。整備内容と進捗(令和8年1月時点)は次のとおりです。

市町村整備対象(地下を活用)規模・収容人数進捗(予定含む)
与那国町新設の複合庁舎の地下(会議室・事務室等)約2,200㎡/約200名令和8年3月 実施設計完了予定、令和8年度 工事開始予定、令和9年度末頃 工事完了予定
石垣市新設の防災公園の地下駐車場約7,000㎡/約500名令和8年1月 実施設計開始、令和9年度 工事開始予定
宮古島市新設の体育館の地下駐車場約7,000㎡/約500名令和8年度 工事開始予定、令和9年度末以降 工事完了予定
竹富町西表島の複合施設(庁舎等)の地下(会議室・事務室等)約1,500㎡/約100名令和7年8月 設計開始、令和8年度以降 実施設計・工事予定
多良間村移住定住促進住宅の地下(多目的ホール等)約1,500㎡/約100名令和8年度以降 実施設計・工事予定

※出典:内閣官房・消防庁・防衛省「特定臨時避難施設の整備について」(令和8年3月、関係府省連絡会議第4回 資料4)内閣官房ホームページ

4-3 補助率9割という強い後押し

これらの整備には、地下部分の補助率9/10(9割)という手厚い国費支援が付きます。財源の枠組みは市町村によって分かれており、自衛隊基地が所在する与那国町・石垣市・宮古島市では防衛省の「民生安定助成事業」で国庫補助、竹富町・多良間村では消防庁が国庫補助の予算を令和7年度補正予算に計上する形です。基本設計の技術的支援・財政支援は内閣官房が担うなど、複数府省が役割分担しています。

※出典:内閣官房・消防庁・防衛省「特定臨時避難施設の整備について」(令和8年3月、関係府省連絡会議第4回 資料4)内閣官房ホームページ

4-4 構造を決める「技術ガイドライン」と、これからの「運用ガイドライン」

特定臨時避難施設の構造は、令和6年3月に内閣官房等が示した「特定臨時避難施設の技術ガイドライン」に沿って計画されます。このガイドラインには、施設の機能継続に必要な室・設備等を確保する建築計画、損傷を防ぐための構造計画、ライフライン途絶時の機能継続のための設備計画などが盛り込まれています。基本方針はさらに、平時の運用・維持管理や、平時から有事への運用転換などを定める「運用等ガイドライン」を内閣官房が新たに作成すると明記しました。建築・構造・設備の各計画が一次資料として整理されつつあることは、関連事業者にとって設計・施工の前提条件が明確になることを意味します。

※出典:内閣官房「緊急事態を想定した避難施設(シェルター)の確保に関する基本方針について」第3章5・第4章(令和8年3月31日閣議決定)基本方針本文(PDF)

5|建設・設備業者が押さえるべき需要と次の注目点

5-1 これから生まれる工事・設備の需要

実装フェーズに入ったことで、需要は「いつか来るかもしれない話」から「設計・積算できる案件」へと変わりつつあります。先島諸島の事例から読み取れる需要の中身は次のとおりです。

  • 地下構造躯体工事 — 庁舎・防災公園・体育館・住宅の新設に伴う地下避難スペースの躯体・防護構造
  • 平時転用を前提とした設備工事 — 駐車場・会議室・多目的ホールとして使いつつ、有事に避難スペースへ転換できる電気・給排水・換気・トイレ・シャワー等
  • 備蓄・滞在機能 — 2週間程度の滞在を支える備蓄スペース、ライフライン途絶時の非常用設備
  • 設計・コンサルティング — 技術ガイドライン・運用ガイドラインに適合した基本設計・実施設計の支援

5-2 「1年後の見直し」と優先地域の整理に注目

基本方針は、国家安全保障戦略など関連方針の見直しを踏まえ、おおむね1年後を目途に「優先して取り組むべき地域等」を整理し、おおむね5年を目途に必要な見直しを行うとしています。つまり、先島諸島に続く優先地域や、シェルターの個別具体の技術基準が今後さらに示される見通しです。国土交通省・防衛省等と連携した技術性能の調査・研究、フィンランド・イスラエル・シンガポール等の海外制度の調査も継続されます。

先行者が有利な構造は変わらない
シェルター整備は「指定/整備計画→設計→施工→運用」の長期プロジェクトです。先島諸島の実装事例は、今後全国に展開する整備の「型」になります。技術・運用ガイドラインを早期に読み込み、自治体の整備計画段階から関与できる事業者が、その後の拡大フェーズで継続受注しやすい構造は今後も続くとみられます。

6|まとめ

この記事のポイント

  • 2026年3月31日の基本方針閣議決定で、シェルター整備は「方針」から「実装」フェーズへ移行した
  • 令和7年4月時点の緊急一時避難施設は全国61,142カ所、地下施設は4,233カ所(人口カバー率155.2%/地下5.5%)
  • 令和8〜12年度を「第2次集中取組期間」と設定し、市区町村単位の人口カバー率100%を目指す
  • 先島諸島5市町村(与那国・竹富・石垣・多良間・宮古島)で、補助率9割の地下シェルター整備が設計・工事段階に入っている
  • 容積率緩和・表彰制度・運用ガイドライン作成など、民間参画と実装を後押しする仕組みが具体化しつつある

WiZNAVIでは、今後の優先地域の整理や運用ガイドラインの公表、第2次集中取組期間の各自治体の動きについても、一次資料に基づいて随時お伝えしていきます。

WiZNAVI 編集部

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