AIを活用したBCP策定支援のイメージ
BCP・防災

AI×BCP策定の新時代 — 東商「SONAE-AI」で中小企業のBCP策定はどう変わるか

2026年4月15日8分で読了強靭化Bizナビ編集部

2026年1月、東京商工会議所がAI活用BCP策定支援システム「SONAE-AI(ソナエアイ)」の提供を開始した。中小企業のBCP策定率はわずか28.0%にとどまる中、「AIがBCPの下書きを自動生成する」という画期的なアプローチは、この数字を大きく変える可能性を持つ。本記事では、SONAE-AIの具体的な使い方、3つのコースの違い、出力される成果物の特徴、そして活用上の注意点を掘り下げる。

BCP策定率28%の壁 — なぜ中小企業はBCPを作れないのか

東京商工会議所の調査によると、会員中小企業のBCP策定率は28.0%だ。大企業の63%と比べて倍以上の開きがある。未策定企業に理由を聞いた結果は以下の通りだ。

  • 「人員に余裕がない」:58.0%
  • 「時間に余裕がない」:52.8%
  • 「具体的な対策方法が分からない」:44.2%

つまり、BCPの必要性は理解しているが、「誰が」「いつ」「何を書けばいいのか分からない」という三重の障壁が立ちはだかっている。SONAE-AIは、この3つの障壁をAIの力で同時に取り除くことを狙ったサービスだ。

SONAE-AIの基本的な使い方

東京商工会議所のプレスリリースおよび中小企業サポートナビの解説によると、SONAE-AIの利用フローは大きく3ステップに分かれる。

ステップ1:企業情報のインプット

自社の基本情報を入力するか、会社概要が分かる資料やWebサイトのURLをアップロードする。AIがこの情報を解析し、企業の業種、規模、立地、事業内容を把握する。

ステップ2:AIによるBCP下書きの自動生成

インプットされた情報をもとに、AIがBCPの下書きを自動生成する。この下書きは、東京商工会議所が公表している「オールハザード型BCP策定ガイド」や「超入門版BCPシート」に準拠した構成となっている。つまり、AIが自由に書くのではなく、東商が定めたフレームワークに沿って生成されるため、内容の方向性にブレが生じにくい設計だ。

ステップ3:AIアシスタントとの対話による編集

生成されたBCPを確認し、自社の実情に合わせて編集する段階では、AIアシスタントが相談相手として機能する。「この項目は自社にどう当てはまるか」「何を書けばいいか分からない」といった疑問に対し、AIが回答してくれる仕組みだ。

BCP策定作業のイメージ

3つのコースの違い — 自社に合ったレベルの選び方

SONAE-AIには、企業のBCP策定経験や対応したいリスクの範囲に応じて3つのコースが用意されている。

超入門版(首都直下地震対策)

BCPに初めて取り組む企業向け。首都直下地震という単一のシナリオに絞り、災害時に「誰が何をするのか」という最低限の行動計画を整理することが目的だ。出力されるのは、東商の「超入門版BCPシート」に準拠した簡潔な計画書で、A4数ページ程度のボリュームになると見られる。

向いている企業:従業員10名以下、BCPを一度も作ったことがない企業

簡易版(オールハザード型)

地震だけでなく、水害、感染症、サイバー攻撃など複数のリスクを想定した「オールハザード型」のBCPを策定するコース。東商の「オールハザード型BCP策定ガイド」に沿った構成で、リスクの洗い出しから優先業務の特定、代替手段の検討までをカバーする。

向いている企業:既に超入門版レベルの検討は終えている、複数のリスクに対応したい企業

基本版(オールハザード型)

最も詳細なコースで、本格的なBCP文書の作成を目指す。簡易版の内容に加え、サプライチェーンへの影響分析や復旧目標時間(RTO)の設定、訓練計画まで含む包括的な計画書が生成されると見られる。

向いている企業:取引先からBCP提出を求められている、事業継続力強化計画の認定を目指す企業

SONAE-AIの出力品質 — 何ができて、何ができないか

SONAE-AIの最大の強みは、「ゼロから考える必要がない」点だ。ZDNET Japanの報道でも「東商のBCP策定支援に見るAI活用の可能性」として取り上げられている。

企業情報をインプットするだけでBCPの骨格が生成されるため、「何を書けばいいか分からない」という最大の障壁が大幅に下がる。また、東商の策定ガイドに準拠した構成で出力されるため、内容の網羅性や構成の妥当性は一定水準が担保されている。

一方で、AIによる自動生成には構造的な限界もある。以下の点は利用者が認識しておくべきだ。

限界1:自社固有の事情は反映しきれない

AIが参照できるのは、ユーザーがインプットした企業情報と公開情報に限られる。自社の建物の耐震性能、従業員の通勤経路、主要取引先との契約上の義務など、内部情報に基づく判断はAIだけでは完結しない。生成された下書きは「たたき台」であり、自社の実態に合わせた加筆・修正は必須だ。

限界2:地域特有のリスクの精度

自社の所在地に基づくハザード情報(洪水浸水想定区域、液状化リスク、土砂災害警戒区域など)をどこまで精密に反映できるかは、AIシステムの設計に依存する。自治体が公開しているハザードマップとの突合は、利用者自身が行う必要がある可能性が高い。

限界3:「紙のBCP」から「実行できるBCP」へのギャップ

SONAE-AIが生成するのはBCP文書だ。しかし、BCPの本質は「文書」ではなく「実行」にある。従業員への周知、訓練の実施、定期的な見直しといった運用フェーズは、AIの出力だけではカバーできない。文書ができた後の実行計画こそが、本当のBCP策定だという認識が重要だ。

企業のBCP研修・訓練のイメージ

SONAE-AIを最大限に活かすための3つのポイント

  1. インプット情報を充実させる:AIの出力品質はインプットの質に比例する。会社概要だけでなく、事業内容の詳細、主要設備の一覧、取引先情報など、できるだけ多くの情報を提供することで、より実態に近いBCPが生成される。WebサイトのURLを指定する場合も、事業内容が詳しく記載されたページを選ぶべきだ。
  2. 生成後の「自社化」に時間をかける:AIが生成した下書きは80%の完成度だと考え、残りの20%を自社の実情に合わせて仕上げる。特に連絡体制(緊急連絡先リスト)、代替拠点の確保、重要データのバックアップ方法など、具体的な行動に落とし込む部分は人間の判断が必要だ。
  3. コースの段階的ステップアップ:BCPに初めて取り組む場合は、まず超入門版で「BCPとは何か」の感覚をつかみ、その後に簡易版→基本版とステップアップする方法が効果的だ。いきなり基本版に取り組むと、出力されたBCPの内容を理解・判断できず、結局「棚に置いたままのBCP」になりかねない。

東商会員以外はどうするか

SONAE-AIの利用は東京商工会議所の会員に限定されている。では、東商会員でない企業はどうすればよいのか。

まず、東商への入会は企業規模を問わず可能だ。東京都内に事業所がある企業であれば入会を検討する価値がある。入会すればSONAE-AIだけでなく、各種経営支援サービスも利用できる。

東商会員以外の選択肢としては、以下がある。

  • 中小企業庁「事業継続力強化計画」:申請書の作成ガイドが公開されており、自力での策定も可能
  • 各地の商工会議所・商工会:BCP策定支援セミナーや個別相談を実施しているケースが多い
  • 地方自治体の支援事業:東京都以外でもBCP策定支援を行う自治体は増えている
  • 民間のBCPコンサルティング:費用はかかるが、自社固有の事情を踏まえた策定支援を受けられる

まとめ — SONAE-AIは「入口」であり「ゴール」ではない

SONAE-AIは、中小企業のBCP策定における最大の障壁「何を書けばいいか分からない」を解消する強力なツールだ。AIによる下書き生成とアシスタント機能により、従来は数週間から数カ月かかっていたBCPの初期策定を大幅に短縮できる可能性がある。

ただし、SONAE-AIはBCP策定の「入口」であり「ゴール」ではない。AIが生成した下書きを自社の実態に合わせて磨き上げ、従業員に周知し、訓練を行い、定期的に見直す。このPDCAサイクルを回して初めて、「実行できるBCP」が完成する。

まだBCPを策定していない中小企業にとって、SONAE-AIは最初の一歩を踏み出すための強力な支援ツールだ。完璧を目指す前に、まずは超入門版から始めてみることを強くおすすめする。

強靭化Bizナビ編集部

国土強靱化・防災ビジネスに特化した専門メディア「強靭化Bizナビ」の編集チーム。政策動向、市場分析、補助金情報、導入事例など、ビジネスパーソンの意思決定に役立つ情報を配信しています。