2026年度は防災庁の創設と国土強靱化中期計画の初年度が重なり、官民を問わず防災投資が加速している。本記事では、既出の記事では取り上げていない最新の防災投資事例を、すべて実在する自治体・企業の取り組みに基づいて紹介する。
事例1:東京商工会議所「SONAE-AI」— AIがBCPの下書きを自動生成
東京商工会議所は2026年1月、AIを活用したBCP策定支援システム「SONAE-AI(ソナエアイ)」の提供を開始した。中小企業のBCP策定率がわずか28.0%にとどまる中、策定の第一歩を後押しするために開発されたシステムだ。
サービスの仕組み
企業情報をアップロード、またはホームページのURLを入力するだけで、AIがBCPの下書きを自動生成する。3つのコースが用意されている。
- 入門版(首都直下地震編):初めてBCPに取り組む企業向け
- オールハザード簡易版:地震以外の災害にも対応
- オールハザード基本版:より詳細なBCPを策定したい企業向け
策定中にはAIアシスタントが相談に応じる機能も備えている。東京商工会議所会員であれば無料で利用可能だ。
建設業者への示唆
事業継続力強化計画の認定取得には、まずBCPの策定が必要だ。SONAE-AIのような無料ツールを活用してBCPの下書きを作成し、それをベースに事業継続力強化計画の認定申請を行うことで、補助金の加点措置を効率的に得られる。
事例2:三井不動産×KDDIスマートドローン — 日本橋の高層ビル屋上からAI遠隔飛行
三井不動産とKDDIスマートドローンは2025年11月13日、日本橋三井タワー屋上において、首都直下型地震を想定したAIドローンの遠隔飛行実証実験を実施した。高層ビル屋上でのAIドローン遠隔飛行は日本初の取り組みだ。
実証の技術構成
- ドローン:AI搭載自律飛行ドローン「Skydio X10」
- 格納設備:自動充電ポート付き「Skydio Dock for X10」
- 通信:衛星通信「Starlink Business」
屋上からの自動離着陸と広域映像撮影を行い、地上の通信インフラが損傷した場合でも衛星通信で情報収集を継続できる体制を検証した。
KDDIの全国1,000カ所構想
KDDIのビジネスメディアによれば、KDDIスマートドローンは全国1,000カ所にドローンポートを設置し、「どこでも10分でドローンが駆付け可能」な社会基盤の構築を目指している。2025年には徳島県、2026年2月には滋賀県と包括連携協定を締結し、南海トラフ地震を見据えたドローンポートの設置検討を進めている。
事例3:神戸市×NTTデータ関西「EYE-BOUSAI」— 防災情報を一元管理
NTTデータ関西の導入事例によると、兵庫県神戸市は総合防災情報システム��EYE-BOUSAI」を導入し、災害に関する多様な情報の一元管理を実現した。
導入前の課題
導入前は、風水害の監視や情報集約が煩雑化し、各区が電話やFAXでの情報共有を行っていた。複数のExcelベースのサブシステムが散在し、職員が情報の整理・集約に追われて本来の応急対策業務が阻害される状況だった。
導入後の成果
- 災害現場・避難所・消防局・建設局からの情報をEYE-BOUSAI上に自動集約
- 関係者全員が同じ情報をリアルタイムで共有可能に
- 情報発信担当の人員を3人から1人に削減
NTT東日本は2024年7月から、中小規模自治体向けに「地域防災支援システム powered by EYE-BOUSAI」の提供を開始している。大都市で実証された技術が、中小自治体にも普及し始めている。
事例4���東京メトロ — 全地下駅舎の緊急一時避難施設指定完了
東京メトロは2025年3月28日、75施設の地下駅舎が国民保護法に基づく緊急一時避難施設として追加指定されたと発表した。これまでの85施設と合わせ、対象となる全160施設の指定が完了した。
指定の意義
緊急一時避難施設とは、弾道ミサイル攻撃による爆風等からの直接の被害を軽減するための一時的(1〜2時間程度)な避難先だ。全国の地下施設の指定数は令和6年4月時点で3,926カ所だが、人口カバー率はわずか4.7%。東京メトロの全駅指定は、地下鉄網を活用した避難体制の構築に向けた重要な一歩��。
建設業者への影響
地下駅舎が避難施設として活用される場合、換気設備の増強、非常用照明の設置、バリアフリー対応など、改修工事の需要が生まれる。東京都の麻布十番駅シェルター整備(2026年度着工予定)はその先行事例であり、他の地下鉄事業者にも波及する可能性がある。
事例5:横浜市みなとみらい21地区 — 災害ダッシュボードによるリアルタイム避難誘導
神奈川新聞の報道によると、横浜市はみなとみらい21地区において、防災DXの実証実験を進めている。
取り組みの内容
- 人流データの活用:人の流れをデータ化し、災害時の効果的な避難誘導に活用
- デジタルサイネージ:災害発生時に緊急情報をリアルタイム発信
- 災害ダッシュボード:被災状況や負傷者搬送を俯瞰的に把握する管理画面
横浜市は「YOKOHAMA Hack!(ヨコハマ・ハック)」という産官学共創プラットフォームを通じて、民間事業者から防災DXの提案を募集し、デジタル技術による災害対策の高度化を推進している。
事例6:東京海上日動×中小機構 — 事業継続力強化計画の策定支援
東京海上日動は、中小機構による「中小企業強靱化のための事業計画策定支援等に係る業務」を受託している。保険会社としてのリスク評価ノウハウを活かし、事業継続力強化計画の申請支援を行う取り組みだ。
「BCPかんたんナビ」
「BCPかんたんナビ」は、最短10分でBCPを策定できるオンラインツールだ。事業継続力強化計画の作成も支援しており、有事の実践に役立つToDoリストや訓練ツール等の機能を備えている。
保険会社がBCP策定を支援するのは、保険商品の販売促進だけでなく、BCP策定企業は保険事故率が低いという実務的な理由がある。防災投資が「コスト」ではなく「投資」として認識される好例だ。
事例から読み取る3つのトレンド
トレンド1:AI活用による防災の「民主化」
SONAE-AIやBCPかんたんナビに見られるように、AIやデジタルツールがBCP策定のハードルを劇的に下げている。専門知識やコンサルティング費用がなくても、中小企業が自力で第一歩を踏み出せる環境が整いつつある。
ト���ンド2:「平時と有事をまたぐ」インフラ設計
KDDIのドローンポート構想(平時の点検・監視に使い、有事に災害対応に切り替え)、東京メトロの地下駅舎活用(平時の交通インフラを有事の避難施設に転用)など、フェーズフリーの発想が実装段階に入っている。
トレンド3:官民連携の深化
神戸市のEYE-BOUSAI導入、横浜市のYOKOHAMA Hack!、東京海上日動×中小機構の連携——いずれも民間の技術・ノウハウと行政のニーズをマッチングさせる取り組みだ。建設業者にとっても、自治体の防災DXに提案型で参画する機会が広がっている。
まとめ — 防災は「コスト」から「投資」へ
日本総合研究所のレポートが指摘するように、防災は「支出」から「投資」への転換期にある。本記事で紹介した事例はすべて、防災への取り組みが事業価値の向上や新たなビジネス機会の創出につながることを示している。
AIによるBCP策定支援、ドローンポートの社会基盤化、防災情報の一元管理、地下インフラの避難施設化——これらは2025年から2026年にかけて実際に動き始めた事例であり、「将来の構想」ではない。建設業者を含むすべての企業にとって、防災投資は今が始め時だ。
強靭化Bizナビ編集部
国土強靱化・防災ビジネスに特化した専門メディア「強靭化Bizナビ」の編集チーム。政策動向、市場分析、補助金情報、導入事例など、ビジネスパーソンの意思決定に役立つ情報を配信しています。