BCP・防災実務

富士山噴火の「広域降灰」で企業は何が止まるのか — 降灰厚別に交通・電力・通信・水道・建物への影響を一望する

富士山が宝永噴火(1707年)クラスで噴火した場合、神奈川県相模原市付近(約60km)では噴火後2日で約20cmの降灰が積もると想定されている。東京都新宿区付近(約100km)でも、2日で5cm以上の灰が積もるとされる(

WiZNAVI 編集部BCP・防災実務 担当
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富士山が宝永噴火(1707年)クラスで噴火した場合、神奈川県相模原市付近(約60km)では噴火後2日で約20cmの降灰が積もると想定されている。東京都新宿区付近(約100km)でも、2日で5cm以上の灰が積もるとされる(出典: JST SciencePortal https://scienceportal.jst.go.jp/stories/20250929_e01/ )。地震や水害と違い、降灰はほんの数cmの段階から交通・電力・通信を同時に止める。堆積厚別に何が起きるかを一望し、自社のBCPに灰で止まる穴が無いかを点検する材料にしてほしい。

3cm未満でも社会インフラは止まる

富士山噴火の降灰は、拠点そのものが無傷でも周辺インフラを先に止める点が地震・水害と異なる。東京都の資料では、微量の降灰でも地上路線の鉄道が運行を停止し、降雨時に3mm以上の降灰があると碍子の絶縁低下によって停電が起きるとされている。火山灰の付着による通信の乱れも同時に生じる(出典: 東京都「Tokyo富士山降灰特設サイト」 https://www.fujisan-kouhai.metro.tokyo.lg.jp/damage/ )。 拠点の建物が健全でも、通勤・物流・通信という事業の前提が同時に崩れる段階が、避難が要らないうちから始まる。オフィスワークは通信と電力の両方に依存し、物流は道路と鉄道の両方に依存する。片方だけでなく複数の前提が一緒に揺らぐところに、地震や水害との違いが表れる。

3〜30cmで生活・事業が動かなくなる

堆積が進むと影響は「動けない」段階に入る。乾燥時に10cm以上、降雨時は3cm以上の降灰があると二輪駆動車が通行不能になる。目や呼吸器の症状、交通支障による生活物資の入手困難も報告されている(出典: 同上)。 従業員の出社や商品の配送が滞る局面であり、事業継続の観点では「動けるはずの人・モノが動けない」ことが問題になる。二輪車配送を組み込んだ物流網、屋外作業を伴う業務、対面接客を前提にした店舗運営は、この段階でとくに影響を受けやすい。マスクや保護メガネといった簡易な備えの有無が、業務を続けられるかどうかを左右する場面も出てくる。

30cm以上で建物そのものが危うくなる

堆積厚が30cm以上になると、降雨時には火山灰の重みで木造家屋が倒壊するものが発生する。下水管の閉塞や水質悪化による水道供給の支障も起きる(出典: 同上)。 この段階では拠点の物理的な損傷と避難の判断が焦点になる。BCPの主眼は、その場で機能を維持することから、安全に退避することへ切り替わる。倉庫や工場の屋根にどれだけの荷重が想定されるか、排水経路が灰で詰まった場合にどう対処するかは、平時のうちに点検しておく価値がある論点だ。 30cm以上という水準は宝永噴火規模でも一部地域に限られる想定だが、可能性がゼロでない以上、拠点ごとのハザード情報を確認しておく意味は小さくない。屋根荷重や排水設備の耐性は建物ごとに異なり、一律の基準では語れないため、施設管理担当と防災担当が連携して個別に確認する体制が要る。

降灰厚別の影響一覧(出典つき)

堆積厚交通電力・通信上下水道・建物
3cm未満地上鉄道が運行停止降雨時3mm以上で停電リスク、通信の乱れ影響は軽微
3〜30cm二輪駆動車が通行不能継続的な負荷がかかる呼吸器・目の症状、物資入手困難
30cm以上通行禁止・制限情報なし降雨時に木造家屋倒壊、下水閉塞・水質悪化

出典は東京都の公表資料。空欄は、その堆積厚については記載が確認できなかった項目を示す。

「国難級」と位置づけられた最新の動き

内閣府は2025年8月26日、富士山噴火の降灰被害を再現したCG動画を公開した。南海トラフ地震・首都直下地震と並ぶ「国難級災害」と位置づけ、備えを呼びかけている(出典: JST SciencePortal https://scienceportal.jst.go.jp/stories/20250929_e01/ )。 冒頭で見た相模原・新宿の想定に照らすと、首都圏の事業拠点の多くがこの想定降灰域に含まれる。富士山の噴火を山梨・静岡だけの問題として扱えない理由がここにある。CG動画による可視化は、これまで数値でしか語られなかった被害像を経営層にも伝わる形にした点で、企業側の危機感の底上げにつながる動きといえる。

地震・水害BCPに空く「灰の穴」

多くの企業のBCPは地震と水害を主軸に組まれており、降灰そのものは想定に入っていないことが珍しくない。地震のように一瞬で建物が壊れるのではなく、堆積が進むにつれて交通・電力・通信・建物へと影響がじわじわ広がっていく点に、対策の立てにくさがある。被害が一目でわかりにくいぶん、優先順位が下がりやすいシナリオでもある。 すでに南海トラフ地震のBCPを整備している企業でも、想定シナリオに降灰を加えているかどうかは点検の価値がある。防災・レジリエンス市場全体の構造は防災・レジリエンス市場マップで整理している。降灰BCPをどう組み立てるかという実務の切り口は、関連記事で深掘りしている。

降灰BCPの点検4項目

堆積厚別に見た影響を、平時に点検できる項目へ落とし込むと次の4点に整理できる。

  • 給気: 火山灰を吸わせない吸気経路とフィルタの確保
  • 電源: 停電を前提にした非常電源と燃料の備え
  • 備蓄: 数日でなく1週間規模を目安にした水・食料の備え
  • 可用性: 通信・交通が止まった状態でも業務を回せる体制

この4点は、次の記事で扱う「その場で機能を維持する」という考え方の具体化にあたる。降灰は避難で守れる範囲が限られる災害であるぶん、平時の備えの質がそのまま事業継続力の差になる。 拠点が一つの企業であれば点検は比較的短時間で終わるが、複数拠点や取引先を含めたサプライチェーン全体で見ると、点検すべき範囲は一気に広がる。自社拠点は無傷でも、取引先の拠点や物流の中継地点が降灰域に入っていれば、供給網全体が同時に止まりかねない。降灰BCPは自社単独の備えにとどめず、主要な取引先の所在地も合わせて確認しておくと、より実効性の高い点検になる。

出典・参考資料

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BCP・防災実務 担当

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