市場・トレンド

シェルターの「基準」はどう決まるか スイス規格と国内認証の三層構造

シェルターの品質は「スイス規格」を物差しに語られるが、日本には地下シェルターを定義する公的な法基準が無く、業界団体の認証が事実上の基準を担う。基準の三層構造を公開規格に足場を置いて整理する。

WiZNAVI 編集部市場・トレンド 担当
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シェルターの品質は、しばしば「スイス規格」を物差しに語られる。だが日本には、地下シェルターそのものを定義する公的な法基準がまだ無い。その空白を、業界団体の認証が事実上の基準として埋めている。つまり国内でシェルターの良し悪しを測る物差しは、三つの層で成り立っている。参照軸としての「スイス規格」、まだ不在の「日本の法」、事実上の基準を担う「協会認証」である。だから性能の数字を鵜呑みにするより、「どの認証の、どの等級に照らした値か」を読めることが、選別の眼になる。本稿は、この三層がどう組み上がり、なぜ基準づくりが業界の相場と信頼を作るのかを、公開された規格に足場を置いて整理する。

スイス規格が「参照軸」になった理由

シェルターの基準を語るとき、多くの議論はスイスに立ち返る。理由は歴史にある。スイスは1962年の政策で、国民1人当たり1平方メートルの避難空間を保証した(出典: swissinfo.ch https://www.swissinfo.ch/jpn/business/48667606 )。同じ時期に全ての新築住居へシェルター設置を義務づけ、1963年には連邦国防省の国民保護局を設けた(出典: swissinfo.ch https://www.swissinfo.ch/jpn/business/48667606 )。スイス製は防護分野の技術と付属品の市場で強く、その仕様が世界の下敷きになってきた(出典: swissinfo.ch https://www.swissinfo.ch/jpn/business/48667606 )。

設計の中身も、規格の体系として積み上がってきた。1963年に建設手段の連邦規則が出され、1966年の技術指針TWP1966がその起点になった(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/shelter_twp/ )。基本仕様は1984年のTWP1984に更新され、これは今も有効とされる(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/shelter_twp/ )。近年はTWK2017が2021年に施行された(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/shelter_twp/ )。過圧の要件は、かつて耐1バールと耐3バールが併記されたが、民間人保護のシェルターは80年代以降おおむね耐1バール仕様に整理された(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/shelter_twp/ )。要点は、スイスの「基準」が単一の数値でなく、版を重ねた設計の体系だという点にある。

日本には「地下シェルターの法」がまだ無い

参照軸のスイスに対し、日本の足元は制度が薄い。日本核シェルター協会の解説によれば、建築基準法では地下シェルターの存在が明確になっておらず、法的には存在しない状態だという(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/howto-chika-shelter/ )。そのため実務では、地下シェルターは「倉庫」や「納戸」として申請されることが多い(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/howto-chika-shelter/ )。専用の法区分が無いという事実は、二つの意味を持つ。

一つは、性能の下限を法が保証しないことだ。求められる換気や気密の水準は、法の外で各社の設計判断に委ねられる。同じ解説は、地下シェルターに要る性能を三つ挙げる。衝撃に耐える堅牢な構造、汚染空気を遮断する気密性、有害物質を除去するCBRNE対応の換気装置だ(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/howto-chika-shelter/ )。収容人数も、建築基準法にもとづき一人1時間あたり20㎥の必要換気量から割り出す運用だという(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/howto-chika-shelter/ )。もう一つは、相場が定まりにくいことだ。基準が任意であれば、何をもって「シェルター」と名乗るかも幅を持つ。買い手にとっては、価格の高低より先に、その一台が何の水準を満たすのかが見えにくくなる。

協会認証が「事実上の基準」を担う

法に基準が無いなら、代わりの物差しが要る。その役を実務で担うのが、業界団体による認証である。日本核シェルター協会は、国内に普及する核シェルターの品質を証明するため、「世界基準の認証制度」を設けている(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/authentication/ )。この認証が拠り所にするのは、スイス政府の基準と、協会が核シェルター建設で蓄積してきた技術・知識を融合させた基準だとされる(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/authentication/ )。参照軸のスイス規格を、国内の建設実務に接ぎ木した形である。

認証は等級で分かれている。協会はSS・S・Aの三等級を示し、いずれも1バール(=100kPa)の過圧に対応することを共通の要件とする(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/authentication/ )。等級を分けるのは過圧値の差でなく、設置の形だ。SS等級は完全に独立したタイプ、S等級は建物に併設されるタイプ、A等級は天井や壁の一部が地表面上に出るタイプと説明される(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/authentication/ )。検査を終えたものには、認証書と認証銘板が発行される(出典: 日本核シェルター協会 https://www.j-shelter.com/authentication/ )。法の裏づけこそ無いが、公開された等級と要件を持つこの認証が、国内では事実上の物差しとして働いている。

「基準の三層」を一枚で読む

ここまでの三つの層を、位置づけ・拘束力・中身の三点で並べると、国内の基準構造が一枚で見える。

位置づけ拘束力中身
スイス規格参照軸(世界基準)国内では強制力なしTWP体系の版を重ねた設計。耐1バール等の過圧要件と1人1㎡の空間
日本の法不在(空白)専用の法区分なし建築基準法上は「倉庫」「納戸」扱い。性能の下限は法で定めない
協会認証事実上の基準任意(法の裏づけなし)スイス基準+協会技術の融合。SS/S/A三等級・耐1バール・認証書と銘板

表が示すのは、拘束力の空いた真ん中を、参照軸と事実上の基準が両側から支えている構図だ。スイス規格は理想の設計体系を示すが、日本の現場を法として縛る力は持たない。日本の法はまだ空白で、性能の下限を定めない。その二つの間で、協会認証が公開された等級によって実務の物差しを与えている。読み手が持つべき視点は単純だ。数字の大小より、その値が「どの層の、どの等級に照らしたものか」を確かめること。基準の出どころが分かって初めて、性能の値は同じ土俵で比べられる。

基準が業界の相場と信頼を作る

最後に、なぜ基準づくりがこれほど重要なのかを整理したい。基準は、単なる技術の話に見えて、実は市場の土台をつくる。共通の物差しが無ければ、各社の性能は同じ条件で比べられない。比べられなければ、買い手は価格の妥当性も判断できず、相場は宙に浮く。逆に、公開された基準と等級があれば、性能の主張は検証できる比較へと変わる。比較が成り立って初めて、適正な相場と、事業者への信頼が育つ。スイスが長い年月をかけて世界基準になったのも、優れた一台があったからでなく、法と規格で共通の物差しを回し続けたからだ。

日本がこれから輸入すべきは、スイスの規格値そのものより、共通の物差しをつくるという発想である。地震国という条件に合わせ、過圧や気密の要件を国内でどう共通化するかが、次の論点になる。その意味で、業界団体の認証が事実上の基準を担う今の局面は、法整備に先立つ過渡期と読める。市場全体のなかで家庭需要がどこに位置するかは、防災・レジリエンス市場マップに整理した。普及の「距離」は、普及率で見た日本とスイスの距離で扱う。基準を読む眼を持つことが、これからのシェルター選びの出発点になる。

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