シェルター整備が国家的課題として浮上するなか、技術面から突破口を開く動きが加速している。プロテクトアーツ株式会社(北海道)が開発した地下シェルター用国産換気システム「ATバリア」が、ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)2026において最優秀賞を受賞した。プロテクトアーツ社のプレスリリースによれば、国土強靱化を支える取り組みとして高く評価されたという。本記事では、ATバリアの技術的特長と、シェルター整備における換気技術の重要性を解説する。
ジャパン・レジリエンス・アワードとは
ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)は、防災・減災や国土強靱化に資する優れた取り組みを表彰する賞だ。自治体、企業、研究機関などが行う先進的な強靱化の取り組みを広く社会に発信し、その普及を促進することを目的としている。今年の授賞式でATバリアは最優秀賞を受賞し、週刊大阪日日新聞などでも「避難場所の空気を守る」技術として広く報道された。
ATバリアとは — 国内初の国産シェルター換気システム
ATバリアは、プロテクトアーツ社が「国内初、世界最高水準」と位置づける地下シェルター用換気システムだ。開発の背景には、日本に流通する海外製シェルター換気装置の高コストと、国内に対応製品が存在しないという課題があった。
名称の「AT」は「All Threats(あらゆる脅威)」を意味し、CBRNE(化学・生物・放射線・核・爆発物)の複合的な脅威に対応する設計思想が貫かれている。
主な技術的特長
1. 多層フィルター構造によるCBRNE対応
複数の異なるフィルターを多層構造で組み合わせ、空気中の微粒子・放射性物質・細菌・ウイルス・有害ガス・揮発性有機化合物(VOC)など、人体に有害な多様な物質を高効率で除去する。煙・粉じん・PM2.5・花粉から感染症リスクまで、平時・災害時・有事のあらゆる空気環境リスクへの対応が可能だ。
2. 自動加圧システムによる汚染空気の侵入防止
避難空間の内部を自動的に加圧することで、外部の汚染された空気が侵入しない環境を維持する。加圧管理は自動化されており、避難者が操作を必要としないよう設計されている。
3. 防爆バルブ搭載
ミサイル着弾時などの爆発による圧力波が換気システムを通じて侵入することを防ぐ防爆バルブを搭載。爆風が換気経路から入らない構造となっている。
4. 多様な電源オプション
商用電源・バッテリー・手動(手回しハンドル)の3通りの運転方式に対応している。停電・断線が想定される有事の際にも、手動でシステムを稼働できる設計は、シェルターとしての実用性を大きく高める。
世界初:一酸化炭素(CO)除去機能を今夏追加予定
プロテクトアーツ社によると、今夏には世界初となる一酸化炭素(CO)除去機能をATバリアに追加実装する予定だという。有事・災害時には火災や発電機の排気などによる一酸化炭素中毒のリスクが高まるが、既存のシェルター換気システムにはCO除去機能を持つものがほぼ存在しなかった。この機能実装は、シェルター内の安全性をさらに一段引き上げるものとして注目される。
なぜシェルターで換気技術が重要なのか
2026年3月31日に閣議決定されたシェルター確保基本方針では、既存の地下施設(地下鉄駅・地下街・大型商業施設の地下駐車場など)をデュアルユース型シェルターとして整備する方向性が示されている。
しかし、既存の地下施設をシェルターとして実際に機能させるには、換気設備の整備が不可欠だ。爆風・粉じん・NBC(核・生物・化学)汚染に対応した換気システムがなければ、地下空間は「閉じ込められる場所」になりかねない。日本核シェルター協会もATバリアの受賞を紹介し、シェルター整備における換気技術の位置づけの高まりを示している。
民間参入の呼び水となるか
政府は2030年を目標に全市区町村での人口カバー率100%達成を掲げており、今後シェルター整備の需要は急速に拡大する見通しだ。ATバリアの受賞は、シェルター換気という新市場に国内製品で参入した先駆的な事例として、他の国内メーカーへの呼び水となる可能性がある。
建設業者・設備業者にとっては、シェルター改修工事における換気設備の設計・施工ノウハウを早期に蓄積することが、この新市場での競争優位につながるだろう。
まとめ
プロテクトアーツのATバリアは、CBRNE対応・自動加圧・防爆バルブ・多様電源という機能を統合した、国内初の国産シェルター換気システムだ。ジャパン・レジリエンス・アワード2026の最優秀賞受賞は、シェルター整備が「政策の方針」から「実用的な技術の具現化」という段階に移行しつつあることを示す象徴的な出来事といえる。
強靭化Bizナビ 編集部
国土強靱化・防災ビジネスに特化した専門メディア「強靭化Bizナビ」の編集チーム。政策動向、市場分析、補助金情報、導入事例など、ビジネスパーソンの意思決定に役立つ情報を配信しています。