シェルターの規格・認証・国産技術づくりをイメージした建設現場の様子
シェルター

シェルターを「作れる国」になるための規格づくり ― 認証制度・ISO標準化・国産技術の最前線

2026年5月29日7分で読了

2026年3月の閣議決定で「2030年までに全市区町村で全住民分を確保」という目標が示されたものの、シェルターには建築基準法のような法定の性能基準がまだ存在しない。「どんな性能を満たせば本物のシェルターと呼べるのか」という土台が固まらないまま、整備目標だけが先行している状態だ。この空白を埋めようと、民間の協会・メーカー・技術者が認証制度づくり、ISO国際規格への参画、国産製品の開発を急ピッチで進めている。本記事では、政策の話ではなく「規格と技術の現場」で何が起きているかを追う。

シェルターの規格・認証・国産技術づくりをイメージした建設現場の様子

1|なぜ今「規格づくり」が課題なのか

1-1 整備目標は決まったが、性能基準は空白

政府は2026年3月31日、緊急一時避難施設について「2030年までに、市区町村単位で全住民を収容できる数を確保する」とする基本方針を閣議決定した。市区町村単位で人口カバー率100%を目指すという、これまでで最も踏み込んだ数値目標だ。

※出典:時事ドットコム「市町村単位で全住民収容 『シェルター』方針を閣議決定」記事リンク

ただし、この基本方針が掲げるのは「数」の目標であり、「個々の施設がどの程度の爆風や放射線に耐えればよいか」という性能の物差しは、民間製品の領域では依然として法定化されていない。政府の技術ガイドラインは、後述するとおり大規模な公共施設(特定臨時避難施設)を主な対象としており、家庭用・企業用の小型シェルターを評価する公的な統一基準はまだない。

1-2 公共施設向けには「技術ガイドライン」が先行

公共の大型施設については、内閣官房が「特定臨時避難施設の技術ガイドライン」を策定しており、2024年3月の初版に続き、同年6月に第2版が公表されている。第2版では、平時の駐車場利用を想定した追補、簡易ベッド配置の寸法計画、平時と有事それぞれの換気・空調の考え方、エントランススペースの追加、湧水対策の明記などが盛り込まれた。

※出典:日本核シェルター協会「特定臨時避難施設の技術ガイドライン(第2版)発表を読み解く」解説記事

特定臨時避難施設は、地下のできるだけ深い場所に整備し、爆風に耐えるため厚さ30センチ超の鉄筋コンクリートで覆う構造とされる。避難者1人当たり2平方メートルのスペースを確保し、食料倉庫・電気・通信・換気設備を備え、2週間程度の避難を想定している。一方、緊急一時避難施設は爆風や破片からの被害軽減を目的に、1〜2時間程度の短時間避難を想定し、地下施設やコンクリート造りの建物を指定する。

※出典:内閣官房 国民保護ポータルサイト「避難施設」ガイドライン

つまり、公共の大型施設には設計の指針がある一方、住宅や事業所に設置する民間製品をどう評価するかは、民間側の自主的な取り組みに委ねられているのが現状だ。

2|民間が動かす「認証制度」と「国内規格」

2-1 スイス基準を取り込んだ3等級の認証制度

この空白を埋める動きの代表が、日本核シェルター協会による認証制度だ。同協会は、国際的に広く使われているスイス政府の基準と、協会がシェルター建設で蓄積した技術・知識を融合させた「世界基準の認証制度」を整えている。評価項目は、換気設備・防爆ドア・室内の気密性といった、シェルター機能に必須の要件だ。

認証は地表面との位置関係で3等級に分かれ、いずれも1バール(100キロパスカル)の過圧に耐えることを求める。

等級区分耐圧
SS等級建物が併設されない完全独立の地下型1バール(100kPa)
S等級建物に併設された地下型1バール(100kPa)
A等級天井面・壁面の一部が地表面上に出る型1バール(100kPa)

同協会は、核シェルターは放射線に加え、爆風・熱線・閃光・電磁パルス(EMP)にも対応する必要があるとしており、認証通過後は認証書と認証銘板を発行する。

※出典:日本核シェルター協会「認証制度について」認証制度ページ

2-2 ISO国際規格へ ― 日本発の技術標準を発信

規格づくりは国内にとどまらない。減災サステナブル技術協会は「核シェルター国内規格整備勉強会」を立ち上げ、新たに策定が進むISO国際規格に対応すべく、唯一の被爆国である日本から「核シェルターはこうあるべき」という技術標準を発信することを目指している。

このISO規格化作業は2021年にフィンランドを拠点に始まり、同協会は2021年11月から関与。ドラフト版の承認会議は2023年2月にヘルシンキで開かれ、同協会から2名の専門家が参加した。国内勉強会は2023年に発足し、第1回には会員・非会員あわせて11社16名が参加。核シェルターの定義、避難環境の必要要件、建築的概念、世界基準などを議論している。

※出典:減災サステナブル技術協会「核シェルター国内規格整備勉強会」勉強会ページ

規格づくりが市場に効く理由
性能基準が共通言語になれば、発注側(自治体・企業)は「何を満たせば良いか」を比較でき、供給側(メーカー)は過剰でも過少でもない設計に集中できる。建築基準法が建設市場の土台であるように、シェルター規格は普及の前提条件だ。

3|国産メーカーの技術開発 ― フェーズフリーとEMP対策

3-1 「普段使いできる」フェーズフリー設計

規格づくりと並行して、国産メーカーの製品開発も進む。直エンジニアリング(茨城県)の防災核シェルター「CRISIS-01」は、普通自動車1台分のスペースがあれば設置でき、有事だけでなく平時の普段使いも想定した「フェーズフリー」設計が特徴だ。冷暖房エアコン、外部電源口、4方向の防犯カメラを標準装備し、平時は書斎や趣味の部屋として使える。

防護面では、JIS規格の鋼材と鉛板で覆い、イスラエル製の特殊ろ過フィルターで有害物質を99.995%除去する設計とされる。

※出典:直エンジニアリング株式会社「防災核シェルターCRISIS-01」公式サイト

3-2 EMP対策という新しい技術領域

同社は2026年4月7日付で、EMP(電磁パルス)対策用のDCコンテナ型筐体の開発に取り組んでいることを公式サイトで明らかにした。EMP対策は前述の認証制度でも防護要件の一つに挙げられており、放射線・爆風だけでなく、電子機器を一瞬で破壊する電磁パルスへの備えが、国産シェルターの次の技術テーマになりつつあることを示している。

※出典:直エンジニアリング株式会社「防災核シェルターCRISIS-01」(2026年4月7日更新情報)公式サイト

3-3 展示会に並ぶ「シェルターを構成する技術群」

シェルターは単体製品ではなく、躯体・扉・換気・電源・備蓄が組み合わさった技術の集合体だ。それが可視化されたのが、2025年10月1〜3日に東京ビッグサイトで開かれた危機管理産業展2025(RISCON TOKYO)の「シェルターゾーン」だった。日本核シェルター協会の会員企業11社が出展し、躯体・コンクリート技術、シェルター扉、CBRN対応の換気装置、空気清浄機、貯水槽、鋼繊維補強材、備蓄食、運用サービスまでを展示した。

会場は連日盛況となり、特に自治体関係者と防衛関連企業の来場が目立ち、テレビ放映後は一般来場者も急増したという。なお、危機管理産業展は次回も2026年9月30日〜10月2日に東京ビッグサイトで開催が予定されており、出展対象にシェルターが含まれている。

※出典:日本核シェルター協会「シェルターへの関心高まる!危機管理産業展2025 にて『シェルターゾーン』を出展」出展報告

※出典:危機管理産業展2026(RISCON TOKYO)「開催概要」公式サイト

4|海外制度から日本への示唆

4-1 スイス ― 規格と義務がセットだった

規格づくりを考えるうえで参照されるのが、世界で最も整備が進むスイスの事例だ。スイスは1963年から2011年まで、新築住宅への核シェルター設置を法律で義務付けていた。設置しない場合は自治体に税金を納め、その分の避難スペースを公共シェルターに確保する仕組みだった。2012年以降も「国民一人ひとりがシェルターに避難する権利」が法律で保証されている。

その結果、人口約904万人(2024年時点)に対して普及率は100%を超える水準にある。対照的に、日本の普及率はわずか0.02%とされる。スイスの教訓は、規格・義務・公共整備が三位一体だったという点にある。

※出典:HANARE「スイスの核シェルター事情|普及率が高い理由や日本で核に備える方法を解説」解説記事

4-2 イスラエル ― 安全保障と産業振興を同時に

日本核シェルター協会は2025年11月11〜15日の5日間、会員とともにイスラエルへシェルター視察ツアーを実施した。報告によれば、イスラエルでは各住戸に安全室(ママド)の設置が義務化され、「レッドアラート」アプリで国民が原則15分以内に避難できる仕組みが整う。ランバム病院では、平時は地下駐車場として使われる広大な空間が、有事には救急医療を行うシェルター病院へ瞬時に切り替わる事例が紹介されている。

視察団は、官民・学術が一体となって安全保障を支える構造を確認し、「安全保障と産業振興を同時に高める仕組みをいかに構築するかが、日本で今後ますます重要になる」と結論づけた。規格づくりを国産技術の育成と結びつける発想は、まさにこの示唆に沿うものだ。

※出典:日本核シェルター協会「【イスラエル核シェルター視察報告】 官民一体となった国民保護体制と防護技術を学ぶ」視察報告

4-3 民間参入の入口は「容積率緩和」と「表彰」

政府の2026年3月の基本方針では、民間の参画を促す施策として容積率の緩和や表彰制度の検討が盛り込まれた。一方で、補助金や助成といった本格的な財政支援は現時点では具体化されておらず、堅牢な防護性能を備えた整備を進めるうえでは、今後の制度設計が課題として残る。

※出典:日本核シェルター協会「【閣議決定!】地下シェルター整備へ政府が基本方針を発表!市区町村単位の人口カバー率100%を目標に」解説記事

5|まとめ

この記事のポイント

  • 2030年までの整備目標は決まったが、民間製品向けの法定性能基準は依然として空白。公共の大型施設には内閣官房の技術ガイドライン(厚さ30センチ超のRC、1人2平方メートル等)が先行している
  • 日本核シェルター協会はスイス基準を取り込んだ3等級(SS/S/A、いずれも1バール耐圧)の認証制度を整備。減災サステナブル技術協会はISO国際規格化に2021年から参画し、日本発の技術標準づくりを進める
  • 国産メーカーは普段使いできるフェーズフリー設計やEMP(電磁パルス)対策へと開発を広げ、危機管理産業展2025のシェルターゾーンには会員企業11社が出展した
  • 普及率100%超のスイスは規格・義務・公共整備の三位一体、イスラエルは安全保障と産業振興の両立が示唆。日本の民間参入の入口は容積率緩和と表彰だが、財政支援の制度設計は今後の課題

WiZNAVIでは、国土強靭化・防災・BCPに関わる事業者の皆さまに向けて、シェルターをはじめとする防護インフラの規格・技術・政策動向を継続的に追っていきます。整備目標の達成には、性能を測る「物差し」と、それを満たす「国産技術」の両輪が欠かせません。発注側・供給側を問わず、規格づくりの最新動向を早期に押さえておくことが、新市場での判断力につながります。

WiZNAVI 編集部

国土強靱化・防災ビジネスに特化した専門メディア「WiZNAVI」の編集チーム。政策動向、市場分析、補助金情報、導入事例など、ビジネスパーソンの意思決定に役立つ情報を配信しています。