2026年3月31日、政府は「緊急事態を想定した避難施設(シェルター)の確保に関する基本方針」を閣議決定した。しかし業界関係者の間では「基本方針だけでは民間が動けない」という声が根強い。整備を加速させるには、シェルターの性能基準・認定制度・補助スキームを法律で明確にする「シェルター整備促進法(仮称)」の立法化が不可欠だ。その立法の流れは現在どこまで進んでいるのか。
現行の法的根拠とその限界
現在、緊急一時避難施設(シェルター)の法的根拠となっているのは、2004年施行の武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)だ。同法は有事の際に国民を保護するための避難・救援体制を定めているが、シェルターの技術的基準や民間施設の認定手続き、整備への財政支援については具体的な規定がほぼない。
2026年3月の閣議決定された基本方針は、既存の法律の枠内で策定されたものであり、「何をシェルターと認定するか」「どの性能を満たせばよいか」「民間が整備した場合にどんな補助が得られるか」については、今後策定される「実施方針」や個別省令に委ねられている。これが民間参入の障壁となっている。
議員連盟の法整備要請 — 石破首相への提言
超党派の「シェルター(堅固な避難施設)および地下利用促進議員連盟」(会長:古屋圭司氏)は、繰り返し政府に法整備を求めてきた。2025年6月11日には石破茂首相に対し「地下施設の確保推進を」とする提言書を提出した(日本経済新聞報道)。
提言の主な内容は以下のとおりだ。
- シェルターの性能基準と第三者認定機関の設立
- 民間事業者が整備・改修する際の補助制度の創設
- 容積率緩和措置の法制化
- 地下利用促進のための規制緩和
また、幹事長を務める片山さつき氏とともに、古屋会長から政府に対して「早期の法整備」の指示がなされたことも報告されている。
法整備が求められる3つの理由
1. 性能基準がなければ民間は動けない
企業が「シェルター対応施設」として投資するには、何をどの水準で整備すれば認められるのかという明確な技術基準が必要だ。基準がなければ、整備コストをかけても「シェルターとして認定されない」リスクがあり、民間投資が進まない。
2. 認定制度がなければ容積率緩和が機能しない
政府が掲げる容積率緩和(シェルター整備部分を容積率計算から除外)も、何をもって「シェルター」とするかの認定制度がなければ機能しない。法整備によって認定スキームを確立することが、デベロッパー・建設業者の参入インセンティブを現実のものにする。
3. 補助制度の根拠が必要
国が民間のシェルター整備に補助金を出すには、その法的根拠となる予算措置・補助制度の法制化が求められる。基本方針に「民間との連携」は明記されているが、補助の具体的な仕組みは法律で規定されなければ継続的に機能しない。
シェルターフォーラム2026 — 立法議論の加速へ
日本核シェルター協会は2026年7月14日、東京・砂防会館において「日本核シェルター協会フォーラム2026」の開催を決定した。官民連携を強化し、シェルター整備の新たな段階への移行を議論する場として位置づけられており、法整備に向けた産業界の意見集約の場としても機能することが期待される。
建設業者が今押さえるべきポイント
立法化はまだ先の話のように見えるが、実際には先手を打てる局面がある。
- 実施方針の策定プロセスに注目:基本方針に続く「実施方針」には、技術基準の方向性や補助スキームの輪郭が盛り込まれる見通しだ。内閣官房や国土交通省の動向を継続的に追うことが重要だ。
- 既存の地下施設改修ノウハウを蓄積:法整備前でも、地方自治体との連携による先行整備案件が出始めている。東京都の大江戸線麻布十番駅シェルター化計画のような案件に対応できる技術・実績を積んでおくことが、本格的な市場拡大時の競争優位となる。
- NBC防護・換気技術の研究開始:シェルター特有の技術要件(防爆構造、CBRNE対応換気、非常用電源等)は、従来の建築・設備工事とは異なる専門知識を要する。技術者の教育・資格取得を先行させることが求められる。
まとめ
シェルター整備を本格的に普及させるためには、基本方針の次のステップとして、性能基準・認定制度・補助スキームを含む立法化が必要だ。議員連盟は石破首相に早期法整備を求めており、政府もこれを受けた動きを示している。建設業者にとっては、法整備が完成してから動くのでは遅い。今のうちに技術的準備と情報収集を進め、市場が開いた瞬間に対応できる体制を整えることが求められる。
強靭化Bizナビ 編集部
国土強靱化・防災ビジネスに特化した専門メディア「強靭化Bizナビ」の編集チーム。政策動向、市場分析、補助金情報、導入事例など、ビジネスパーソンの意思決定に役立つ情報を配信しています。