5か年加速化対策とは何か
「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」は、2020年12月に閣議決定された国家的な防災投資プログラムです。2021年度から2025年度までの5年間で、事業規模おおむね15兆円程度を投じ、激甚化する風水害や巨大地震への備え、インフラの老朽化対策を重点的かつ集中的に実施するものです。
この対策は、2018〜2020年度に実施された「3か年緊急対策」(事業規模約7兆円)の成果と課題を踏まえて策定されました。3か年緊急対策では、2018年の西日本豪雨や北海道胆振東部地震を契機に緊急的な対策が講じられましたが、5年間に期間を延長し予算規模を倍増させることで、より計画的かつ抜本的な対策を推進する狙いがあります。
なぜ「加速化」なのか
「加速化」という名称には、以下の意味が込められています。
- 気候変動により災害が激甚化しており、対策のスピードアップが不可欠
- インフラの老朽化が加速しており、予防保全への転換を急ぐ必要がある
- 国際的な安全保障環境の変化に対応する緊急性が高まっている
- デジタル化・DX推進による効率的な防災体制の早期構築が求められている
予算15兆円の内訳と重点分野
5か年加速化対策の15兆円は、大きく3つの柱に分類され、合計123の対策項目で構成されています。
第1の柱:激甚化する風水害や巨大地震等への対策(約7.4兆円)
全体予算の約半分を占める最大の柱です。具体的な対策は以下の通りです。
| 主要対策 | 概算事業費 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 流域治水対策 | 約2.8兆円 | 河道掘削、堤防強化、遊水地整備、雨水貯留施設 |
| 砂防・土砂災害対策 | 約1.2兆円 | 砂防堰堤、急傾斜地崩壊防止施設 |
| 津波・高潮対策 | 約0.9兆円 | 防潮堤整備、水門自動化 |
| 地震対策 | 約1.5兆円 | 住宅耐震化、緊急輸送道路橋梁耐震補強 |
| 火山対策等 | 約1.0兆円 | 監視体制強化、避難施設整備 |
第2の柱:予防保全型インフラメンテナンスへの転換(約4.9兆円)
高度経済成長期に集中的に整備されたインフラの老朽化対策です。国土交通省のデータによると、建設後50年以上経過するインフラの割合は、2023年時点で道路橋約39%、トンネル約27%、河川管理施設約26%に達しており、2033年にはそれぞれ約63%、約42%、約38%まで増加する見込みです。
| 対象施設 | 概算事業費 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 道路(橋梁・トンネル等) | 約2.1兆円 | 橋梁修繕、トンネル補修、法面対策 |
| 河川・ダム施設 | 約1.0兆円 | 水門・排水機場の更新、ダム再開発 |
| 港湾・空港施設 | 約0.8兆円 | 岸壁補強、滑走路補修 |
| 上下水道 | 約0.6兆円 | 管路耐震化、処理場長寿命化 |
| その他公共施設 | 約0.4兆円 | 学校施設、官庁施設等の修繕 |
第3の柱:国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進(約2.7兆円)
防災DXの推進とインフラデータプラットフォームの構築が主要テーマです。
- インフラモニタリング:IoTセンサー、衛星データ活用による常時監視体制の構築
- 防災情報システム:SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)の高度化
- BIM/CIM活用:3次元モデルによる設計・施工・維持管理の一貫的な情報活用
- i-Construction推進:ICT施工、自動化・ロボット化の促進
- 線状降水帯予測精度向上:スーパーコンピュータを活用した予測技術の高度化
次期計画(2026-2030年)での20兆円規模への拡大見込み
2025年度で現行の5か年加速化対策が終了することを受け、2026年度からの次期5か年計画の策定作業が本格化しています。与党・自民党の国土強靱化推進本部を中心に、次期計画の事業規模は20兆円程度とする方向で議論が進められています。
15兆円から20兆円に拡大する根拠
| 拡大要因 | 詳細 | 追加見込額 |
|---|---|---|
| 資材価格・人件費の上昇 | 建設工事費デフレーターは2020年比で約20%上昇 | 約2〜3兆円 |
| 老朽化インフラの増加 | 修繕・更新対象施設が年々増加 | 約1〜2兆円 |
| 安全保障対策の追加 | シェルター整備、国民保護施設の拡充 | 約0.5〜1兆円 |
| 防災DXの深化 | AI・IoTの本格導入、データ連携基盤の拡充 | 約0.5〜1兆円 |
この結果、次期5か年計画の年間平均事業規模は約4兆円/年となり、建設投資全体(約70兆円/年)の約5.7%を占める見通しです。建設業界にとって安定的な受注の柱となることは間違いありません。
年度別予算配分の推移
5か年加速化対策における年度別の国費予算(補正予算+当初予算)の推移は以下の通りです。
| 年度 | 国費予算(概算) | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 2021年度 | 約2.0兆円 | 初年度、体制整備と重点事業着手 |
| 2022年度 | 約2.2兆円 | 流域治水、道路ミッシングリンク解消加速 |
| 2023年度 | 約2.4兆円 | インフラ老朽化対策の本格化 |
| 2024年度 | 約2.5兆円 | 能登半島地震を踏まえた緊急追加対策 |
| 2025年度 | 約2.6兆円(見込み) | 最終年度、次期計画への橋渡し |
国費ベースでは5年間合計で約11.7兆円となり、これに地方負担分や民間投資を加えた事業規模ベースでおおむね15兆円に達する構造です。年度ごとに予算が漸増しているのは、事業の進捗に合わせた段階的な投入と、物価上昇への対応を反映しています。
恩恵を受ける業種・企業像
国土強靭化予算の恩恵は建設業界を中心に幅広い業種に波及します。
直接的な恩恵を受ける業種
- 大手ゼネコン(売上高1,000億円以上):大規模ダム・トンネル・橋梁工事の主要受注者。技術提案力が競争優位に。
- 中堅ゼネコン(売上高100〜1,000億円):地方整備局発注の中規模工事。地元密着型の営業が強み。
- 専門工事業者:法面工事、地盤改良、PCa製品(プレキャストコンクリート)、耐震補強など、専門技術が求められる分野で安定受注。
- 建設コンサルタント:計画・設計・点検診断業務。インフラ長寿命化計画の策定需要が拡大。
間接的な恩恵を受ける業種
- 建設機械メーカー:ICT建機、ドローン、ロボットの需要増。コマツ、日立建機等。
- 建設資材メーカー:セメント、鋼材、アスファルト合材の安定需要。
- IT・通信企業:防災DXシステム、IoTセンサー、クラウドプラットフォームの提供。
- シェルター関連企業:次期計画で本格化する国民保護施設整備で新規参入機会。
入札参加・事業参入のポイント
国土強靭化関連事業へ参入するための具体的なポイントを解説します。
公共工事の入札参加資格
国土強靭化関連の公共工事に参加するには、以下の資格・準備が必要です。
- 経営事項審査(経審):建設業の経営状況を数値化する審査。総合評定値(P点)が入札参加等級区分の基準となる。
- 入札参加資格審査:国(各地方整備局)、都道府県、市町村ごとに申請が必要。
- 技術者の確保:監理技術者・主任技術者の配置要件を満たすこと。一級土木施工管理技士等の有資格者が不可欠。
受注力を高める5つの戦略
- 総合評価方式への対応力強化:技術提案書の品質向上。過去の類似工事実績、自社独自技術のアピールが重要。
- 新技術・NETIS登録:国交省の新技術情報提供システム(NETIS)に自社技術を登録することで、総合評価での加点要素に。
- ICT施工実績の蓄積:i-Construction対応工事の実績を積むことで、今後増加するICT活用工事で優位に。
- 災害協定の締結:自治体との災害時応急対応に関する協定を締結し、地域貢献を可視化。
- JV(共同企業体)の戦略的活用:大規模工事には大手との、専門工事には異業種とのJV参加で実績を構築。
具体的な予算執行スケジュール
国土強靭化予算の執行スケジュールを理解することは、企業の営業活動を最適化するために極めて重要です。
年間の予算執行サイクル
| 時期 | イベント | 企業が取るべきアクション |
|---|---|---|
| 6〜8月 | 各省庁の概算要求準備 | 次年度の事業計画・重点分野の情報収集 |
| 8〜9月 | 概算要求提出 | 具体的な事業箇所・予算額の分析 |
| 12月 | 政府予算案決定 | 発注見通しの確認、技術提案の準備開始 |
| 1〜3月 | 補正予算の場合は早期執行 | 補正予算関連の早期発注に対応 |
| 3月 | 予算成立 | 発注見通しの最終確認 |
| 4〜6月 | 第1四半期発注(年間の約40%) | 最大の受注機会、入札参加・技術提案提出 |
| 7〜9月 | 第2四半期発注 | 上半期の追加発注、補正予算の動向注視 |
| 10〜12月 | 補正予算編成・第3四半期発注 | 補正予算の情報収集、年度内発注への準備 |
特に注目すべきは、政府の「前倒し執行」方針です。国土強靭化予算は景気対策の側面もあり、年度上半期(4〜9月)に重点的に執行される傾向があります。年間発注額の約60〜70%が上半期に集中するため、4月の発注開始に合わせた準備を年明けから進めておくことが重要です。
次期計画(2026〜2030年度)の策定スケジュール
- 2025年前半:与党内での議論本格化、骨太の方針への反映
- 2025年後半:具体的な事業規模・分野別配分の調整
- 2025年12月:次期計画の閣議決定(見込み)
- 2026年4月:次期5か年計画の開始
次期計画の詳細が固まる前から、自社の事業領域と強みを棚卸しし、20兆円市場のどこを狙うかの戦略を策定しておくことが、先行者優位を確保する鍵です。
出典・参考:
- 内閣官房国土強靱化推進室「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」
- 財務省「各年度予算のポイント」(2021〜2025年度)
- 国土交通省「建設工事受注動態統計調査」
- 国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来予測」
- 自民党国土強靱化推進本部提言資料
強靭化Bizナビ編集部
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